STORY | ナノ

▽ 祈り人


夜。

真っ暗い、真っ暗い、月明かりだけが町を照らす夜。

家の中、備え付けられた大きな鏡の前で、いつものように少年は話し掛けた。

鏡に映る自分に。何度も何度も。なにが欲しい、なにが欲しい、と。

鏡の中の少年は表の少年と同じ動きをするだけ。返事など返ってこなかった。

それでも少年は話し続けた。なにが欲しい。なにが、欲しい。

それを、ほしのひとは眺め続けている。

少年の後ろでじーっと。

色も形も不透明。下手をすれば物体でさえないのではないかーーー。そう錯覚するほど揺らめいた体。

見かねたほしのひとは声掛けた。

「君は一体なにがほしいんだい? 自問自答にも飽きただろう。私なら君の欲しいものをなんでも与えてあげられる」

しかし少年は一心不乱で鏡の自分に問い掛けるのみ。

彼の世界に、他のものなんてないようだ。

ああ、じゃあ。

「じゃあ君の欲しいものを探しに行こう。私は君を、どこにでも、連れていける」

少年は振り向いた。はじめて示した反応だった。

光を映さない瞳にーーーああ、夜だから、見えるはずもないか。ほしのひとはひとりでに苦笑する。

「さぁ行こう。欲しいものを探しに。星の旅に。君の望むものが手に入るのならば、私はどこまでもついていこう。見つかるまで、傍にいてあげよう」

手招きする。

その腕に、少年はしっかりと掴まって、

星の旅に、夜の空を歩いた。



2017/10/17



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