STORY | ナノ

▽ 猫の住む世界。


人間が道の端で死んでいた。


目を閉じて、真っ白い肌で、死んでいた。


驚きはしたけど僕は学校に行かないといけなかったので、死体を避けてそのまま通りすぎた。




人間が道路の真ん中で死んでいた。


車に引かれたり潰されたりで、もはや跡形もない。


周りを歩く人々は、目をそらしたりもともと気付かなかったりで、そのまま通りすぎていく。


僕も見習って、その死体を見ないふりして通りすぎた。




顔のない人間が死んでいた。


どうすればああなるんだろう。好奇心でいっぱいの子ども達が死体を取り囲んで楽しそうに話し合っている。


しかし大人がそれを棒で転がして道の端へ追いやった。


これで視界に入れずに済む。僕は安心して通りすぎた。




腸をぶちまけて人間が死んでいた。


もはや誰もそばによらない。ただただハエがたかっていた。


ハエに近寄られても困るので僕は早足で通りすぎた。




人間が半分溶けた状態で死んでいた。


本当に、跡があるわけでもなく半分。


そろそろ暑くなってきたんだなと実感して、僕は夏を感じながら通りすぎた。






ある日のことだった。


横断歩道を渡っていた小さな猫が車に跳ねられた。


その様子に周りは驚いてすぐに小さな猫のもとへ駆け寄った。


誰もが心配そうな顔をして小さな猫を見つめている。


誰かが呼んでくれたらしい救急車が到着。すぐさま小さな猫を大切に運んでいった。


立ち止まった僕は、可哀想だな、と小さくなっていく救急車の後ろ姿を見ながら思った。



2017/06/22



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