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▽ 手紙送りの見回り廻り


 こんにちは。おはようございます。
 走ったり歩いたり、時には腰掛けて休憩したり。特に時間に追われるでもなく気まぐれに私はお仕事を遂行します。こんなお仕事しているの私くらいしかいなくて少し寂しさも覚えるけど、だけど私一人な分みんなにも顔を覚えてもらえるの。それは嬉しいかな。ほら、また私の顔を覚えてくれた子が手を振ってくれた。その時私も振り返すの。こんばんは、って。それから目的地に着くと備え付け足られた郵便受けに指定の物を放りこみます。
 私のお仕事は郵便屋さんです。といってもあらゆる事柄で最先端を走っているハイカラシティでは手紙や物を送るなんてもうほとんどありません。ハイカラシティの外ではまだ主流なんだろうけど、ハイカラシティでは人手が自分しかいないこともあって大きなお荷物は注文しても受付機関に自分で取りに行くことになっている。小さいものならば私も届けられるんだけど、私だって女の子だもの。大きい物はご容赦ください。
 とっても以外なのは、小さいお荷物よりも手紙の方が圧倒的に多いこと。だってハイカラシティではイカ型の端末でメールも広告も送れるし、そっちの方がお手軽だし手紙なんて真っ先に廃れてしまいそうな産物だ。でもこうも多いのを見ると、みなさんお手紙好きなんですね、って、なぜだか嬉しくなる。
 そういうわけだから、今日も私はお手紙やお荷物をたくさん詰め込んだカバンを首から掛け、あっちへこっちへ歩き回ります。歩いたり走ったり、時には腰掛けて休憩したりして。こんな私の気まぐれを許してくれる、ハイカラシティのみなさんはいい子ばかりです。
 私のお仕事はハイカラシティだけでなく、ハイカラシティから出ることもあります。ハイカラシティは遠くから来たまだ親の保護で守られているはずの年齢の子が多いからね。それに加え外ではそこまでイカ型端末も布教されていないから、手紙も自然と増えます。とはいっても外は私の管轄外だから、届けるのはハイカラシティから出た物だけであって、外のお届け物はこちらに持ってくるのは私の役目ではないけれど。
 辿り着いた先で目的を果たすと、私は来た道を走って戻った。スカートの裾が大袈裟に揺れて、帽子が飛んでいかないように左手で抑えながら。右手はカバンの紐に添えられているので、なかなか早く進まない。両腕を精一杯動かせば、私だってなかなか足は早いんですよ。うん。
 一度ハイカラシティの中心部に戻ると、誰も座っていない、駅に一番近いベンチに腰掛けた。ここからならみなさんを簡単に見渡せる。うん。今日もいい天気です。
 そんな風にゆっくりと休憩をしていると、自然と目がいくのはインクリングの出入りが多く、一番密度の高いロビーのこと。今日も楽しそうなイカ、悲しそうなイカ、腹を立てているイカ、緊張しているイカ、色んな表情をした子達がたくさんいます。
 私はああいうバトルには参加しません。ハイカラシティに来たら必ず全員がやるはずの、むしろほとんどのインクリングがそれが目的でここに移り住むまである、それほどみなさんを虜にするあのバトルをしない理由は、特にない。
 ただ私はバトルをしなくてもこうやってお仕事をしていれば収入は得られる。それに、こうやってみなさんを見ながらあちこち走り回れるこのお仕事が、私は大好きなので。だからまだいいかなって、そんな気持ち。
 でももし参加するとすれば、まず楽しみなのはギアを選ぶことだな。あれこれ考えてお洋服を選ぶのは、楽しそうです。
 私は一つ体を伸ばすと立ち上がった。休憩も終わり。そろそろ次の目的地へ足を運ぼうと思います。
 歩き始めた時、ふと落ち込んだ表情の男の子を見かけた。恐らくバトルで良い結果が出なかったんだと思う。普段楽観的なインクリングが特段落ち込むのは、大抵バトルに関してだ。
 励ましてあげたい気持ちになったけど、私は素知らぬ顔で歩き続けた。顔を前に向けると、その子の顔も見えなくなる。
 熱中出来ることがあるのは、とっても良いこと。
 心が折れて、傷付いても、きっと立ち向かわない選択肢なんてないんだろうな。だってみんな、バトルが大好きだから。そう思うと笑みがこぼれた。
 よし、私も頑張ろう。そう意気込むと、次の目的地の地図を見ます。ちょっと遠いかも。でも私は歩みを止めません。だってこれが私のお仕事だから。
 みなさんが頑張っている姿を見るのが、色々な表情を見るのが、私は好きです。だからこのお仕事は、当分やめられそうもありません。



2018/04/15



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