贈物。 | ナノ
それだけでいい、なんて嘘



『檜佐木副隊長、お茶入りましたよ』

「お、サンキュー。そっちの机に置いといて、すぐ行くから」



指示されたとおりに湯飲みを机に置く。
まもなく紙を捲る音が止んで、副隊長が大きく伸びをした。

首をコキコキと鳴らしながら、私が立つ机の傍までやってきて。
お前も一緒に休憩、と、手を引かれるように無理矢理ソファーへと引っ張られる。



『え、あの、副隊長!?』



すとん、と座らされたのは、なんと副隊長の脚の間。
左手で私の腰を抱えて、右手で机の上に置かれた湯飲みに手を伸ばす。
副隊長が上半身を曲げるから、密着してる私の上半身も同じように曲げられて。
耳元でお茶を啜る音が聞こえて、その近さにただじっとしていることしかできなかった。



「なに緊張してんの?」

『あ、の…今仕事中…!執務室ですし、というか、見られてるんですけど…!』

「別にいつものことじゃねえかよ…。つーか今は休憩中だし。今更何恥ずかしがってんだよ」



そう。ここは執務室。
隊首室や編集長室ならともかく、ここは席官が出入りする場所なのだ。
別に私たちの関係は周知の事実だし隠す必要もないのだけれど、いくら何でも周りが気まずすぎる。

すみません、と席官たちに視線だけ送れば、大変ですね、とか、いつものことだし気にすんな、って視線が返ってきて、やっぱり恥ずかしくなった。



『あ、えっと…副隊長?』

「んー?」

『何、してるんですか?』

「何って…見りゃわかるだろ、充電だよ、充電」



肩に感じる重み。
ふんわりと鼻腔をくすぐる甘いシャンプーの匂い。
背中の彼は私の方に頭を乗せて、腰に回した腕にぎゅう、と力を込める。

つまり今私は、彼に思いっきり抱き締められている、のだ。




最初、檜佐木副隊長はクールで、真面目で、私なんかよりずっとずっと大人な落ち着いた人、そんなイメージだった。
そんな副隊長が好きで好きで仕方なくて、ダメもとで告白してみたら、意外にも真っ赤な顔で頷いてくれたその姿に、私は見事に射抜かれてしまった。

そうやって付き合うようになってから、意外に甘えたがりで、子どもっぽい所があって、よく笑う人、そんなイメージに変わった。


もちろん最初はこんな風じゃなかった。
さすがにこんな姿誰にも見せらんねえって言って、お昼のときに二人でゆっくりして、その時にくっついてるくらいだったのに。

ある日私が同隊の人に告白されたのをきっかけに、「鵺雲は俺の!!」と、最初の言葉はどこへやら、業務時間以外はこんな風に私を傍に置いときたがるようになった。(さすがに執務室を出れば別だけど)

嬉しいことなんだけど、九番隊副隊長ともあろう人が、一度だけそんな風に言ったことがある。
でも副隊長は悪びれる様子もなく、「鵺雲からの愛が足んねえせいだ」って見事に一蹴されてしまった。

それでも周りから文句が出ないのは、やっぱり仕事は完璧だし、業務中は例え私でも怒るときは怒るし、部下へのフォローも忘れないからだ。
そういうところはちゃんとメリハリをつける、そんな姿が部下からの信頼をなくさないんだと思う。




おちつく、私だけに聞こえるような小さな音量で吐き出された声は、しっかりと私の鼓膜を震わせる。
人前でこんな風にぎゅってされるのはやっぱり恥ずかしいけれど、それでも嬉しいって感じる私も、相当彼に溺れているらしい。



『副隊長?そろそろ休憩おしまいですよ?』

「あー…もう?まだ離れたくねえんだけど…」



ちょっとだけ頭を上げてから、またぽふん、と肩へ戻ってくる副隊長の頭。
やだって言わんばかりに腰を引き寄せる彼は、まるで子どもみたいで。

こうやって甘えられるのも悪くないけれど、今は休憩中、このあとも仕事は続くわけで。



『ほら、隊士たちに示しがつかないでしょうが』

「仕方ねえなあ…」



するり、と彼の腕から抜け出して立ち上がろうとする。
けれど何故かできなくて、見れば袖を掴まれていて。



『檜佐木副隊長?』

「悪い、やっぱあと五分」



ぐい、と引かれて、私はまたもとの位置へ逆戻り。
すっぽりと納まった脚の間で同じようにぎゅっと抱き締められて。
精一杯身を捩ったところで解放されるはずもないから、おとなしく自分の体を副隊長に預ける。

満足そうに笑った副隊長が、そっと私の髪を撫でた。



「オマエら、悪いけどちょっとだけむこう向いてろなー」



室内にいる席官たちに突然そんな事を言い出す。
その真意を一瞬で理解した皆が、やれやれ、といった表情を浮かべた。
さすが、というべきか、でもこんなに物分かりがよすぎるのも問題じゃない?

全員の視線がこちらから外れたのを確認して、副隊長は私を膝の上に横向きに座らせて。
死覇装を掴んでいた手を首に回すように目で訴えてくるから、おずおずと回してみれば、にっと嬉しそうに笑って。



「本当はもっとこうしてたいけど…これで我慢しとく。声、出すなよ?」



耳朶に触れそうな位置で囁いたかと思うと、次の瞬間には唇を塞がれていた。
薄く開いた隙間から舌が割り込んできて、絡めとられる。

背中に回された手がゆっくりと腰のラインをなぞれば、身体中にビリビリとした感覚が流れる。
執務室なのに、そんな背徳感もあるせいか、あっという間に彼のペースに巻き込まれた。

唇を結ぶ銀糸を、副隊長の赤い舌がつ、と舐め取って。



「ん、可愛い」



間近で細められた目にどきん、と心臓が跳ね上がる。
未だ離れようとしない、しかも下に降りていこうとする檜佐木副隊長の手をべちっと叩いて、漸く開放された私の顔は、誰がどう見ても真っ赤で。

仕事を再開した席官たちに、愛されてますね、と今日もからかわれる結果となってしまった。



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