贈物。 | ナノ



あれ?と思ったのは、それから数日後。
その日も同じように、檜佐木副隊長にお茶を運んだときのことだった。



『副隊長、お茶です』

「ん、そこに置いといて」



指示されたのは、すぐ目の前。
いつもはソファーの前なのに、なぜか今日は自分の机。
そのまま湯飲みに手を伸ばしてお茶を啜る。

珍しい光景にそのまま動けないでいると。



「…どうした?俺に何か話?」

『あ、いえ…何でもありません』



いつもの優しい声でそう、と笑った副隊長は、そのまま手元の書類に視線を落とした。


なんか、変だ。
それを感じたのは私だけじゃないみたいで、周りの席官たちも何かあったんですか?と聞きに来る。
そう言われても何の心当たりもないし、むしろ私が教えてほしい。

お昼のときも一緒にご飯を食べたけれど、やっぱりどこか違う。
いつもみたいに笑ってくれるのに、何だろう。

そのすっきりしない妙な違和感は、業務中ずっと続いた。



******



終業時刻を迎え、席官たちも次々に帰路につく。
窓から月明かりが差し込む頃には、檜佐木副隊長と私の二人だけになっていた。

未だに自分の席に座ったまま書類を書き続ける副隊長。
私はソファーに腰を下ろして、瀞霊挺通信の編集作業をしていて。
お互いの紙を捲る音だけが、室内に響き渡る。


ああ、やっとわかった。
この、なんとなく感じていた違和感の正体。

檜佐木副隊長が、一切私に触れてこないせいだ。

休憩中もお昼のときも、そして今だって仕事の会話を交わすだけで、一定の距離は保たれたまま。
毎日檜佐木副隊長に何らかの形で触れられることが当たり前になっていたからこそ、それがないだけでこんなに寂しく感じるなんて。


そっと様子を伺えば、そこにいたのは仕事の顔の副隊長。
こうやって改めて見ると、本当にカッコいいなぁって思う。
そして湧き上がってくるのは、やっぱり好きだなぁって感情と、触れられないってことにちょっとだけ感じる不安。

そのまま彼の様子に視線を奪われていると、ふいに絡まった視線に、心臓がどくん、と音を立てた。



「どうした?」

『え、っと…あの…』

「ん?」



筆を置いて、私のほうをじっと見つめる。
その視線の柔らかさに、私は思わず息を呑んだ。

手元の書類を机に残して、副隊長のもとへ歩み寄る。
あの、と立ち止まる私に、優しく微笑みながら手を差し出してくれる。
その手を取ると、そのまま椅子に座る彼の脚の間に立つ形になって。


見上げられる、という状況に慣れてない私は、ただ彼の目を見つめる。
今日一日触れられなかっただけなのに、こうやって向かい合うだけでドキドキしてしまう。



「んー…鵺雲、ちょっとだけしゃがんで」



言われるがままに身を屈めると、副隊長はそっと私の唇に自分のそれを重ね合わせる。
軽く触れただけですぐ離されてしまったことに、私は驚いてしまって。

気づけば自分からもう一度副隊長にキスをしていた。
自分からなんて初めてだから、押し付けるみたいにしかできなかったけど。


ゆっくりと離れれば、ちょっとびっくりしたような副隊長の顔。
けど、それはすぐにさっきまでの落ち着いた表情に戻って。



「もういいのか?」

『え?あ…その…』

「鵺雲が満足したんなら、俺もいいや」

『ふ、くたいちょ…?』

「だって、鵺雲はもういいんだろ?」



ちょっとだけ意地悪そうな笑みを浮かべて、握っていた手を離そうとする。
それだけじゃ足りないなんて、いつもみたいにぎゅってして触れてほしいと思ってることなんて、絶対わかってるはずなのに。

このまま離れるなんて、嫌。


咄嗟に副隊長に抱きついてみる。
どうしたらいいのかわかんなくて、そうすることでしか副隊長に気持ちを伝えられなくて。
必死にふるふると首を振れば、耳元で副隊長がふっと笑ったような気配がした。



「もー無理。限界」



その言葉と共に、私の背中に副隊長の腕が回される。
さっきまでとはまるで別人みたいに、力を込めて引き寄せられた。

痛いほどにぎゅう、と抱き締められてるのに、でもそれが嬉しくて。



「たった一日だっつーのにな…耐えんのすげーつらかった」

『え?耐えるって…どういう…?』



その顔を覗き込めば、しゅんとしたような、眉を下げた視線とぶつかる。
私を膝の上に向かい合うように座らせて、わっかにした腕の中に閉じ込めると、じっと私を見上げて。



「なんつーか、な?鵺雲に触れてえとか、好きだとか思ってんの…俺だけみたいな気がしてよ」

『…ん?』

「だっていつも俺ばっかり好き好き言ってっからさ…。不安にもなんじゃん」



阿散井副隊長に相談してみれば、一回ひいてみろって言われたらしくて。
どうしたらいいか彼なりに必死に考えて、こういう手段に出たらしい。

今日私から触れられなかったら、立ち直れなかったかも、そう言って。



『な…によ、莫迦!!』

「え、なに!?なんで?」

『そんなことしなくたって…わ、私だって、ちゃんと好きなのに…っ!もう、なんなんですか!?』



もう!!と首に抱きついて、副隊長の髪に頬を寄せる。
髪から香るシャンプーの匂いが、心の中を落ち着かせていく。
背中に回された手と、髪を撫でてくれるその手が心地よい。



『不安になったのは…私の方です…』

「そっか……そんならよかった」



何が、と言おうとして、それはすぐに喉の奥に消えていく。
俺ちゃんと愛されてんだな、って笑った声がすぐ近くで聞こえてしまったから。

当たり前です、と不意に零れた涙を副隊長の肩で押さえる。
そっと顔を上げれば、眉を下げた嬉しそうな顔の副隊長。
その表情はもう仕事モードでもなんでもなくて、ちょっと子どもっぽく笑う、いつもの副隊長で。



「鵺雲」

『はい?』

「前に言っただろうが、ずっと傍に置いときてえって。そんな俺が鵺雲に触れねえなんて…できると思うか?」




自嘲気味に私に問いかけて、涙を指で拭ってくれる。



『…無理、ですね』

「だろ?」



二人で顔を見合わせて笑って、どちらからともなく顔を近づける。
触れた唇の温かさに、心が満たされていくのがわかった。


副隊長の策にまんまとハマってしまったけれど。
一緒にいるだけじゃ足りなくて、ちょっとだけ恥ずかしい面をみせたけれど。
そのおかげで、自分でも呆れるくらいの感情を思い知ることになるなんて。

改めてその事に気づくきっかけを作ってくれた副隊長に、私はまた溺れることになる。



副隊長。
だいすき、です。








end.

りささまリク、「修兵がヒロインにぞっこんらぶ!とにかく激甘、溺愛されたい!」です。

お待たせして大変申し訳ありません…!!
まだ待っていてくださいますでしょうか…。

ぎゅーとか人前でちゅーとか、頭撫で撫でさせてみました!…が、お姫様抱っこが入ってな…い…orz あの、代わりに膝上抱っこじゃダメですか…!!


溺愛させたつもりです、はい。
好きすぎて逆に不安になっちゃうくらい、頭の中は彼女のことばかり。
離れるなんて考えらんねえ!!みたいな感じが伝わってれば、いいな!!

すみません、こんな生温いもの書いて…。
糖度が足りぬですよね…。あぅ(´・ω・`)

加筆・修正はいつでも受け付けますので、お気軽にお申し付けくださいませm(__)m

お持ち帰りはりささまのみオッケーです☆


ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございました!


Title/にやり様 おやすみ/past05より
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