カーン、ヘームヘムヘムヘム。

夕ご飯の鐘が鳴った。
今僕は図書室で一人、委員会活動中。
今日は僕の当番で誰も人が来なかったことから、本の整理をしていた。
ほんとは貸出口に居なきゃいけないんだけど、今の時間生徒は食堂だからね。

ああこの本紐が契れてしまってるじゃないか。

僕は一旦貸出口の方に新しい紐を探すため歩いて行き、


「不和先輩っ!」

『! きり丸、』


きり丸と会った。
どうしたんだろう、皆この時間は食堂にいるはずなのに。
それに今日当番じゃないきり丸がここに来るのは珍しいな…。


『何できり丸がここにいるんだろう…うーんうーん』

「悩まないでくださいよ先輩!俺、さっき早くに飯食って来たんすよ。不和先輩まだでしょ?俺が代わりにここに居ますんで」

『え…』

「行ってきてください!この前バイト手伝ってくれたお礼っす」






そんなわけで、きり丸の好意に感謝しながら僕は食堂に来た。
でも三郎は学園長先生に呼ばれていないし、あとの皆も探したけど長屋には居なかった(たぶん委員会かな?)。
ハチはきっと毒虫探ししてそうだけどね。
あ、もしかしたらジュンコ探しかも…ふふ。


今日のランチメニューを見るとAセットが焼き魚定食、Bセットが唐揚げ定食、かぁ。
うーん、どっちにしよう。
いつもは三郎と食べてるから決めてもらってたんだけど、今日はいないし…。
ちらっと食堂を見回したけど兵助たちもいないみたいだ。


『うーん、うーん…』


困った。
おばちゃんの料理は何でも美味しいから、こういう風に二つの選択肢があると迷ってしまうんだよなぁ。


「…何を悩んでいるんだ」

『!!』


後ろから澄み切った綺麗な声が聞こえた。
初めて聞く声、初めて感じる気配。

誰、だろう。


『えっと、AセットかBセットで迷ってしまって…』

「はぁ………だったらお前はAを頼むといい。私はBを頼むから」

『……はい?』

「はんぶんこだ」


知らない人だった。
たぶん濃い緑色の制服だったから六年生の先輩なんだろうけど(よかった、敬語使って…!)。
ふわふわした艶やかな髪がその人の肩を落ちていく。

顔はすごく整っている人、だ。
揃えられた前髪に黒縁眼鏡がよく映えている、と思う。


「唐揚げ3つやる。…魚少し貰っていいか?」

『あ、どうぞどうぞ…!//』


って、アレ!
僕何知らない先輩とご飯食べてるんだろう!
気付いたら僕はその先輩と向かい合わせに座り、先輩にお皿を差し出している。
あ、唐揚げもいつの間に。


「魚の骨はこうすると、簡単に取れるんだ」


箸を器用に使ったその人は僕がいつも焼き魚に苦戦する骨を簡単に取ってしまった。
うわあ、すごい。こんな綺麗に取れるものなのか。

って、違うよ僕!
この先輩と初対面なんだから、名前聞かなくちゃ…!


「鉢屋三郎…今日はやけに大人しいんだな」

『え…(そうか、間違えられてたのか!)いや、あの、僕は』

「……玉子焼き欲しい」

『え、あぁ、はい…どうぞ』


言うタイミング逃しちゃったよどうしよう。
完璧この先輩僕を三郎と間違えてる…!
しかも…すごく幸せそうに食べるなぁ、玉子焼き好きなのかな。
ああ違う違う、どうやって先輩の名前聞こう…それから僕のことを言おう、うーんうーん…!


「ご馳走さまでした」

『あ、』

「私は先に行くが鉢屋三郎はゆっくり食べればいい」


そう言って先輩はスッと席を立つとおばちゃんのとこへお盆を返しに行ってしまった。
あああ待ってください先輩、僕貴方の名前聞きたかったのに…!






ガラッ


『きり丸、今帰ったよ。代わりありがとう』

「いえいえ!今度またバイト手伝ってくださいね!……ん、先輩どうしたんっすか?顔真っ赤っすよ」


『え…?!///』


ああもう、今日部屋に戻ったら三郎にあの先輩のことを聞こう。
よく迷い癖のある僕だけどそれだけはすぐに決めることができたのだった。

あぁ…何だろうこれ、すごい胸がドキドキする。







110315

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魚の骨取り除くのがうまい人、マジ尊敬してます←