春。


暖かい風が花や草木を芽吹かせ、冬眠していた動物たちの目も覚まさせた。

辺りはもうぽかぽか日和。

私の一番好きな季節だ。


そして私にも嬉しい一報が、その暖かい風に乗って届いたのである。





『忍術学園に来たりし。貴殿を先生として招きたい所存である』





というわけで来ちゃった。


自分でも安っぽいなぁと思うけど。
私はフリー忍者だ。
収入が安定してるわけではないので、この機会に安定してる教職に就くのもいいかなぁなんて。


私は忍術学園出身ではないが利吉から評判も聞いている。

「忍術学園はほんとにいいとこだ」と。



彼とはまたフリーの仕事をしている際に会って息投合し、たまに同じ任務をする仲だったんだけど、

しばらくは会えなくなるなぁ。

ちょっと寂しかったりもする。



『ごめんくださーい』


「は〜いっどちら様でしょうか?」



胸元に事務と大きく書かれた青年が扉を開けてくれた。

おわぁ、忍術学園広い。
私が通ってたとこよりも数倍は広い


それにしても、

目前の青年の「事務」の字に目が行ってしまう。



ここで働いたら「先生」と大きく書かれた制服を着るのだろうか。

うわあ…。



「あっ、あなたが名字さんですね。 学園長先生から聞いております。 どうぞ」







……




『あっあの』


「はい、何ですか?」


『先生方は貴方の着ているような…制服を着ているんでしょうか?』


「まさか! 違いますよ。 事務員だけの特殊な制服です」



よかった!




あれからしばらく学園長先生のいる庵に着くまで小松田くん(って言うんだって! 癒し系だなぁ)と話した。

何だか、話を聞くかぎりとてもいいところっぽい。
先生方も優しそうだし、生徒はきっと可愛いよ、たぶん!


ちょっとドキドキしながら、学園長先生の部屋の襖を開けた。



『失礼致します』


「おお、待っておったぞ」


『この度は、忍術学園で雇っていただきたく、参上致しました』



お土産にどうぞ、と茶菓子を渡そうとしたら目の前に犬がいた。

え、何これ。


すごい可愛い犬…!


頭巾被ってちゃんと二足歩行してるよ!



「おぉ、こいつはヘムヘムじゃ。仲良くしてやってくれ」


「ヘムゥ」


「して本題じゃが、わしは名字くんを雇うつもりじゃ」



いきなり雇用…!



確かに雇いたいと言われて来たが、適性検査や私の身元を調べないなんて。

怪しい。


実際に確証はないけど、私は勘が当たる方だ。
今は切実に当たってほしくないけど



「利吉くんに聞いた通り、中性的な顔をしとる。 おまけに美形」


『は、はぁ』



急に何を言い出すんだ。






「名字くん、君はこれから男性教師として働いてもらう」








『え』



頭がついて行かない。

学園長先生はヘムヘムに自慢げに素晴らしい思い付き…云々とかなんとか言っている。


いやいや待って。



『何故ですか!!』


「何故ってー…よい思い付きじゃろう? なぁヘムヘム?」


「ヘムヘムゥ」



ヘムヘムおまっ…!!



「この忍術学園では忍たまは男性教師に、くのたまは女性教師に教わっておる。 じゃが、忍たまにもくのいちの教えが必要じゃし、そのまた逆でもそうじゃ。 まだ前例が居なくての。 お主にやってもらいたいのじゃ」



なんっ…だと!(無駄に長いな)

つまりは私が第一人者になれと言うことか!
聞いてないですよ!

そんなめんどそうな仕事!



『…だとして、何故男性教師にならなければいけないんです?』


「先生方が納得しなくての。 忍たまの先生は忍たま長屋に住むことになっているから…反対が多くてな」



ということは先生方にもバレてはいけない、ってこと…!
なんというハイリスクな仕事!



『……わかりました。 では男性教師として働きましょう』






「よろしい。 …あ、言い忘れておったが



バレたらリストラじゃ。



頼んだぞ名字先生」










嘘でしょおおお!!!







100925

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