the Secret Room | ナノ
the Secret Room



正義



フレンはずっと心の何処かで考えていた。
己の芯とする正しさとは程遠い、秘めたる願望について。

それはいつも胸を掻き乱し、腑に落ちない感情を腹の底を叩いて主張し、忘れさせてはくれなかった。

かき消すために様々な事に打ち込んだ。
その結果、騎士団長という肩書きも手にした。
平民では、ありえないことだ。
名誉な事だ。

しかしそれでも、彼の心は空っぽだった。

いつしか枯れるようにそうなってしまった。

そしていつも、1人の女性に焦がれていた。

父は騎士だった。
正しさを、正しくある事を教えてくれたひとだ。
母はそんな父を愛し、信じて、それがゆえにフレンを残して逝ってしまった。
フレンの価値観、正しくあるというすべての源は、そんな両親からもらったものだった。

フレンにとって、ずっと渦巻く願望を実現する事は、正しさとは程遠く、卑劣な事だった。
絶対にあってはならない事だった。


ある晩、フレンは夢を見た。
焦がれる女性を、自分の思うがままに抱く夢だ。
かつてのように。
夢の中では彼女も、フレンによって享受される快楽に溺れ、いつか聞いた愛らしい悲鳴を上げていた。
己が腕の中で。

あの長い髪に触れたい。
あの白い肌を、美しい胸の膨らみを、滑らかな脚を、蜜の味を、全てを食らいたい。

もう一度僕の腕の中で、彼女の全てを閉じ込めたい。
ベティの中を僕の体液で汚したい。
渡さない、渡さないんだ。
誰にも、誰の目にも触れさせない。

夢で見たことによって、彼の中で何かが外れ、ずれはじめた瞬間だった。


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