満月と新月
快適な航海
甲板で潮風を受けながら、ユーリ達はノードポリカへと向かう。
「この船があなたたちの船になるフィエルティア号よ。彼は海船ギルド、ウミネコの詩のトクナガ。今回は彼が操船してくれるけど、これからは自前の操船士を雇ってね」
カウフマンがトクナガ紹介する。
「トクナガです。よろしくおねがいしますね」
「でもベティがギルドに入るなんてね、ドン驚いてたんじゃない?」
カウフマンがベティに話しかけてきた。
「まだドンには話してないのよん。昨日決めたとこだからぁ」
「そうなの?でもまあ、あなたが落ち着けるところに出会えてよかったわね」
「あはは、大げさねん」
ベティはおかしそうに笑った。
「でもなんで今さらギルドに入ろうなんて思ったわけ?」
珍しくリタが聞いてきた。
「さぁ。自分でもわかんないわん」
「やっぱ、あんたって変なの……」
「それにしても、急ぎではないけど、重要な商談だったからすごく助かったわ」
カウフマンがにっこりと笑う。
「ええ、海凶の爪に遅れをとるところでした」
護衛の男がカウフマンに頷いた。
「海凶の爪か、ちょくちょく名前を聞くな」
「そう?兵装魔導器を専門に販売してるギルドよ?最近うちと客の取り合いになっててね、海が渡れなかったら大口の取引先を奪われるところだったわ」
カウフマンはやれやれ、といった様子だ。
「にしても、やつらどこから魔導器仕入れてるんでしょうね?」
護衛の男が首を傾げる。
「そうねん、兵装魔導器なんてそうそう手に入れられるもんじゃないわよん」
ベティが腕組みをしながら言った。
「まさか帝国が……?でも、管理は魔導士の方で……」
リタがこめかみを指でおさえながら何事か思案を始めた。
そのとき大きく船体が揺れた。
「来たわね!」
カウフマンが叫んだ。
「みなさん気をつけてください!」
トクナガもあたりを見回した。
魚人が何匹も甲板に上がってくる。
「ちょっと…船酔いしたのじゃ〜」
突然一匹の魚人から声が聞こえた。
「まっ魔物がしゃべった?!」
カロルはひぃっと後ずさりする。
「まさか、あの魔物と同じ…?」
エステルは険しい表情だ。
「しゃべってると舌噛むぜっ」
ユーリが勢いよく斬りかかっていく。
「ん?なんか聞き覚えが……」
ベティは首を傾げた。
とりあえず、仕事はこなさねばならないので、剣を抜いた。
「これは結構な数ねえ」
レイヴンも矢をつがえる。
「あら、そのほうがやりがいがあるわ」
ジュディスはとても楽しそうだ。
各個撃破で確実に仕留めて、数分後にやっとひと息つくことができた。
「さすがね、やっぱり私の目に間違いはなかったみたい」
カウフマンが嬉しそうに言った。
「しっかし、凛々の明星はおっさんもこき使うのね…聖核探したりと、
色々忙しいんだけど」
レイヴンはあーっとため息をついて肩を竦めた。
「聖核って、ノール港でさがしてたアレか」
ユーリはレイヴンを見た。
「それっておとぎ話でしょ?あたしも前に研究したけど」
リタが言う。
「まぁそう言われてるのはしってるよ」
レイヴンが言った。
「どうしてそれを探してるんです?無いと言われているのに…」
「どうしてって、そりゃ…ドンに言われてるからね」
レイヴンはガクリと首を垂れた。
「…………」
ベティはその様子に眉を寄せた。
突然魚人が立ち上がり、何かを吐き出した。
パティだ。
「快適な航海だったのじゃ〜」
「パティ!!」
エステルがびっくりして手で口を覆った。
「魔物に飲まれて、航海もなにもないだろ」
「パティ…あたしらが拾わなかったら、栄養にされてたわよぉ」
ベティは胸を撫で下ろした。
「おう〜ベティ姐!また会えて嬉しいのじゃ」
「うわああああ!」
トクナガの叫び声があがる。
「ちっ!まだいやがったか!」
ユーリが駆けつけ斬り倒した。
トクナガは深い傷を負っていて、エステルが治癒術をかけたが、顔色が冴えない。
「困ったわね、だれか操船できる人……いるわけないわよね」
カウフマンはため息をついた。
「うちがやれるのじゃ」
パティは意気揚々と手をあげた。
「え?パティが?」
カロルは目を見開いた。
「世界を旅するもの、操船ができなくては笑われるのじゃ」
パティはにっこりと笑った。
「それじゃ、あなたにお願いするわね」
「ほんとかよ……」
ユーリはため息をついた。