満月と新月 | ナノ
満月と新月



ベティの人脈



ユーリ達は各々準備を済ませ、宿のロビーに集まっていた。

「リタはどーすんだ?」
ユーリが言った。
「エアルクレーネを調べるんですよね?」
エステルはリタを見た。

「そ、ケーブ・モックは調査、報告済み。他のエアルクレーネは旅して調べるつもりだったから、あんたらについてくわ」

「つまり、調査のために私たちを利用するってことかしら」

ジュディスはにっこり笑う。
「まぁね、ヘリオードの時みたいに調査中、ひどい目に遭わないとも限らないわけだし。1人よりもあんたたちと一緒のがとりあえず安心よね」

「相変わらずいい性格してるぜ」

ユーリは肩を竦めた。
「また一緒に旅できるんですね。わたし、嬉しいです」
「そ、そう…あたしは別に。そ、それより、港に行くんじゃなかったの?」
ふいっと顔を逸らしたリタは、真っ赤だ。
「まったく。若人は元気よのう〜」
レイヴンが茶化す。

「ふざけてんの?!」

リタがくってかかった。
「ひー!どんな逆ギレよ〜!!」
「んじゃ、港にいきますか」





宿を出て港に向うと、港の方からヨーデルが歩いてきた。

「あれ、ヨーデル……」
「みなさん、またお会いしましたね」
ヨーデルは側近を連れている。

「次期皇帝候補が、こんな道ばたへもへも歩いてていいのかよ?」

「へもへもって…ドンと交渉かしらん?」
ベティは笑った。

「はい、これからヘリオードで友好協定締結について話し合いです」

ヨーデルはどことなく嬉しそうだ。
「ヘラクレスってデカブツのせいで、ユニオンは反帝国ブーム再燃中でしょ?難航してるんじゃない?」
レイヴンが言った。

「はい。その影響で帝国側でも友好協定に疑問の声があがっています。事前にヘラクレスのことを知っていれば止められたのですが…」

「次の皇帝候補が、何も知らなかったのかよ」
ユーリが言う。
「ええ、今私には騎士団の指揮権限がありません」

「騎士団は、皇帝にのみその行動をゆだね、報告の義務を待つ、です」
エステルが本の内容を抜粋した。

「なら、話は簡単だ。皇帝になればいい」

ユーリはあっけらかんと言う。

「それは無理ねん。前皇帝が跡継ぎを決めずに崩御してるじゃん。帝位継承には宙の戒典って帝国の至宝が必要なのよん」

「はい、ですが、宙の戒典は人魔戦争の頃から行方不明で…」

「ふーん、それで次の皇帝が決まらないのね」
レイヴンがうんうんと頷いた。
「にしても、ベティよくそんなこと、知ってたね」
カロルがベティを見た。

「んぁ?あぁ、前にアレクセイが言ってた」

「はぁ?あんた顔広すぎ!」

リタはベティを睨んだ。
「ヨーデル様、まいりましょう」
側近の男が言う。

「すみませんが、ここで失礼します」

ヨーデルはにこりと笑うと、歩いて行った。





港は閑散としていて、船も疎らだった。
どうやら、港同士を繋ぐ定期便もしばらく運行は無いらしい。

「あんなにたくさん!勘弁してくれ〜!」
「命がいくつあっても足りねえよ!」

青いバンダナを頭に巻いた男たちが、叫びながら走り去って行った。

「待ちなさい!金の分は仕事しろ!しないなら返せ〜っ!」

走り去る男たちに怒鳴っているのは、幸福の市場のボス、カウフマンだ。
「ギルド、蒼き獣をブラックリストに追加よ!」
「はい、社長」
カウフマンの指示にハキハキと返事をする、ボディーガードらしき男。



「メアリーなら、ノードポリカに船だしてくれるかもだってばぁ」

ベティはにやりと笑って、カウフマンの所に走って行く。

「メアリー!!」

「あらベティじゃない!」



「メアリー?ってカウフマンさんのこと?ボク、もうベティが誰と知り合いでも、驚かないよ…はは…」

カロルが力なく笑った。

「ベティちゃんの人脈、侮っちゃいけないよ〜ドンに10年近く仕えてる俺様より知り合い多いからね」

レイヴンはヘラヘラと笑う。
「ま、俺たちも行こうぜ」
ユーリはカウフマンとベティの所まで歩き出し、皆も続いた。



「ってな感じで、ノードポリカに行きたいのよん。なんとかお願い!」

ベティはカウフマンに両手を合わせてお願いしている。

「私も港から出たいのよ?でも魚人がくるから…ってあらユーリ・ローウェル君。いいところに」

カウフマンがユーリを見つけて言った。
「手配書の効果か…?ベティとの騒ぎか…?」
ユーリは苦笑いした。

「彼も居るなら話は早いわ!あなたたちにぴったりの仕事があるんだけど」

カウフマンはにっこりと笑う。
「ってことは、荒仕事か」

「察しのいい子は好きよ。この季節魚人の群れが船の積荷を襲うんで大変なの。いつも紅の絆傭兵団に護衛をお願いするんだけど、そこのボスが亡くなったらしくてね。いま使えないのよ」

カウフマンはため息混じりに話した。

「誰かさんが潰しちゃったから」

リタがぼそっと呟いた。
「他の傭兵団は骨なしで、私としては頭の痛い話ね」

「ごめんメアリー、わたしたちギルドを作ったのよん。それでいま仕事中だってばぁ」

ベティは俯いた。

「凛々明星っていうんです!」

カロルが喜々として言う。

「悪いが、他の仕事は請けられねえ」

「それなら、ギルド同士の協力って事でどう?ギルドの信義には反しなくってよ。それに、うちと仲良くしておくと、色々お得よ〜?」

カウフマンは至って爽やかな笑みを浮かべている。
「どうかしらん?ボス?」
ベティがカロルを見た。
「えっ……あ…うー、えと」
カロルは決めかねている。

「分かったよ。けどオレたちは、ノードポリカに行きたいんだ。遠回りはごめんだぜ」

かわりにユーリが答えた。

「かまわないわ。魚人がでるのはここの近海だもの。よその港にさえ行ければ、そこから船を手配できるから。それと、ベティがギルドに入ったお祝いに、使った船を進呈するわ。もちろん、無事にノードポリカに着いたらね」

カウフマンはベティににっこり笑った。
「えぇ、いいの?魚人がやっかいなのはわかるけどぉ」
「もちろんよ。あなたとユーリ君が居れば無事に海を渡れそうだしね」

「ボロ船だけど、破格の条件には違いないわね」

ジュディスがにっこり笑った。

「じゃぁ、契約成立ってことでいいかしら?」

「なんかいいように言いくるめられた気がする」

リタはジト目だ。

なにはともあれ、ノードポリカへと渡る手段を得たユーリ達は、カウフマンとともに港を出ることにした。


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