満月と新月 | ナノ
満月と新月



2・relation



「というわけで、音響魔導器に代わる何かを作ってもらえないかしら?」

ただいまバウルで移動中。
リリの話を聞いて、リタはこめかみを抑えた。

「音響魔導器か……あれは発掘される絶対数が少なすぎて、あたしもあんまり見たことないのよね」

「じゃあ、出来ないって事?」

ベティの言った言葉に「そんなわけないでしょ」とリタはぴしゃりと言い切った。
出来ない、というのはプライドが許さないらしい。


「原理はわかってるわ。でも、今は精霊術の方で忙しいから」


「片手間にでもやってあげてはどうかしら?」

「……中途半端は好きじゃないのよね」

「じゃあ、がっつり引き受けてくれるってこと?」

リリの言葉に、彼女は首を振った。

「まあまあ、ちょっと考えてみてよぉ。ノードポリカの闘技場とかでもマイクがないと大変みたいよん」

「あの騒がしさの中、魔導器もなしに声通らないわよね」

リリは頷いてから、自分たちも同じ事で困っていると肩を落とした。


「さ、ハルルに着いたわ」

ジュディスはそう言って、手慣れた様子で縄梯子を降ろした。





「エステル〜」

リタはノックもなしに、ずかずかエステルの家へと入っていく。

副帝の住まいにこんな風に入っていくのは彼女くらいだろう。
見張りの騎士はいつもの事、と見慣れているのか、それに対して微動だにしなかった。



「あ、リタ!ベティにジュディスも!それに……リリさんまで!」

「こんにちは」

リリはにっこりと笑みを返した。

「元気そうねでなによりだわ」


「丁度ユーリも来てるんですよ!どうぞ座ってください、今お茶をいれますね」

エステルは嬉しそうに笑って、キッチンへとパタパタ向かって行った。



ベティが部屋に入ると、甘い焼き菓子の香りとともに、ソファーに座って紅茶を飲んでいる人物と目が合った。

「ふ〜ん……」

ベティはじぃっと睨むようにその人物を見た。

「なんだよ、ひさしぶり」

ひらりと手を上げて言ったのは、ユーリ。

「………あたしにはぜーんぜん会いに来ないのに、エステルとは遊ぶのねえ?」

彼女はすすっと、太ももの銃に手を伸ばす。


「いや、たまたま依頼で、な?」


ユーリは気まずそうに頬をかいた。


2人のやり取りに構わず、リタ達はソファーに腰掛けた。


「あっそう、依頼ね。こないだのダングレストでの依頼は断ってこっちを入れたんだぁ?」

「待てって、落ち着けよ」

ユーリはおそるおそる立ち上がり、両手をあげた。
ベティ右手はしっかりと銃を抜く準備が出来ている。


「落ち着いてるわよ?恋人は、ほったらかしでぜーんぜん会いに来ないけど、落ち着いてるわよ?」


「あのなあ……ちょっとこっち来い」

ユーリはベティの手を引いて、エステルの家を出た。





「お待たせしました……ってあれ?ベティとユーリは?」

エステルが紅茶をいれて持って来てくれたが、座っているはずの二人が見当たらず、首を傾げた。


「デートしに行ったわ」

ジュディスはうふふ、と笑う。





[←前]| [次→]
しおりを挟む