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「なぁお前どうすんのよ」

 跡部たちが立ち去った後、机にうつ伏せていると、前の席の今田が声を掛けてきた。名前が顔を上げると好奇な目で見ている今田と目が合った。

「どうするって何を?」
「はぁー、わかってねぇな、お前。お前がしたことはとんでもねぇことなんだぞ?」

 今田は肩を竦めると溜め息を吐いた。そして跡部の素性をしたり顔で語りだした。
 何でも学園一の金持ちだとか。凄まじい権力を持つ男だとか。しかも学力、運動共にでもトップだとか。女子から絶大な人気を誇るとか。さも自分の事のように誇らしげに語る今田に対し名前は頬杖をつきながら気の無い調子で相槌を打った。

「まぁそんな凄い人を殴った名字も凄いけどさ」

 今田が一種の尊敬の眼差しが送るが名前は相変わらず生返事をするだけだった。

 今田の話よりも名前には気掛かりな事があった。それは鳳の事だ。名前は頬杖をついたまま視線だけを隣の席に向けた。相変わらず綺麗な横顔だった。普段と違う箇所といえば鳳特有の穏やかな雰囲気が漂っていないというところだ。
 跡部との一件から二人は会話という会話をしていなかった。正確には鳳が拒絶していた。名前が声を掛けようとする度に鳳は上手い具合に躱すのだ。更に二人の視線が重なると鳳はあからさまに目を逸らした。

「(俺、避けられてるよな)」

 それは只の思い過ごしなどでは無く、確信だった。現に避けられる原因に対して思い当たる節が名前にはあったからだ。そして名前は鳳の横顔を見るなり溜め息を漏らした。
 
「……なぁ、長太郎」
「……」

 名前の呼び掛けに鳳は視線だけを寄越した。その様子に名前に口元をへの字にすると先程より強い口調で彼に呼び掛けた。

「長太郎、こっち向けよ」
「……何?」

 漸く顔を向けた鳳に名前は頬杖をつくのを辞めると椅子に凭れかった。

「なぁ、何で俺の事避けるんだよ」
「……別に避けてなんかないよ」
「いやいや、避けてるだろ」
「避けてないよ」
「いや、避けてるね」

 淡々と答える鳳に名前はひたすら食い下がった。鳳は肩を竦めると小さく溜め息をついた。

「だから避けてーー」

 ない。と鳳が言い切る前に名前は自分の机を両手で叩いた。乾いた音が響き、教室内が一瞬静まり返る。誰かが「え、何、喧嘩?」と名前と鳳を交互に見ながら呟いたのを始めに教室内が再び騒がしくなった。

「……名前……?」

 驚愕する鳳を尻目に名前は立ち上がると彼の席の前に立った。鳳を無表情で見下ろしながら、名前は息を大きく吸い込んだ。

「お前、いい加減にしろよな!あんだけあからさまに避けといて、何が避けてないだよ。白々しいんだよ!跡部を殴った事でどう思ったのかは知らねーけど無視してんじゃねーよ!」

 唾を吐く勢いで捲し立てると鳳を睨み付けた。名前の言葉に鳳は眉間に皺を寄せたがすぐに目を伏せた。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、何も言い返さない鳳に名前はキュッと唇を噛んだ。

「……何とか言えよ」
「別に俺は」
「別に何だよ。何かあるから俺を避けるんだろ」

 名前の問い掛けに鳳は口を噤んだ。表情は一変し、悲しげに歪んでいる。名前が再び問いかけるが、彼は押し黙るだけだった。
 徐々に名前の胸には何かが込み上げてくる。それは苛立ちなのか悲しみなのか、分からなかった。

「……そんなに、俺が嫌かよ」



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