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「なら幸村くんはそのまま榊さんを待っていてくれ。ほら名字行くぞ」
「あ、はい。精市またな!」

 手を軽く振ると、幸村も微笑みながら手を振り返した。小さく、またねと言ってくれたのを名前は聞き逃さなかった。
 さて行くか、と通路に振り返ると先生は先に歩き出していた。名前は慌てて駆け寄った。

「ちょっ、先生歩くの早いって」
「お前は歩くのが遅い」

 と言いつつ、さりげなく歩調を名前に合わせてくれた。そのことに気付いた名前は顔を綻ばせた。

「それにしても二年生からの編入って珍しいな。何でここに編入しようと思ったんだ?」

 廊下を歩いていると先生が急に話題を振ってきた。

「ああ、跡部くんだよ」
「跡部?」
「うん。氷帝の跡部くんって凄いテニスが上手いって聞いたから、それで」

 跡部ねーと先生は溜め息混じりに言うと名前に軽く見た。

「なら名字はテニス部に入部するのか」
「まぁそのつもりだけど」
「……テニス部は辞めとけ」
「え?」

 思いがけない言葉に名前の足が止まる。一体どういう意味なのか、説明を求めるように先生を見た。

「お前程度なら精々球拾いで終わる。悪くは言わないから辞めとけ」
「……」

 その言葉の意味を理解するのに、さほど時間は掛からなかった。
 玉拾いで終わる、それは名前にはレギュラーは取れないという意味だ。仮にも優勝経験のある名前からすると侮辱されたも同然だった。
 しかし名前は腸が煮えくり返る思いを必死に抑え、笑顔を取り繕った。

「ご忠告ありがとうございます。でも心配ご無用です。俺は玉拾いで終わる気なんてこれぽっちもありませんので」

 それだけを言うと名前は早々と歩いた。後ろで先生が呆気にとられている。そんな先生を余所に名前は今に見てろと闘心を燃やしていた。


***


 あれから特に会話も無く歩いていると、先生が急に立ち止まった。前を歩いていたので、必然的に名前の足も止める。
 そして振り返るなり名前に歩み寄ると、彼の顔をまじまじと見た。

「先生?」

 一通り見終えると満足したのか、うんうんと頭を頷かせた。その不可解な行動に名前は首を傾げた。

「……何ですか?」
「いや、ただ意外と整った顔してるなと思って。流石テニス部入部希望者ともいうべきか」
「それ、どういう意味?」

 何故そこでテニス部が関係するんだと疑問に思った名前は先生に問い質した。先生は頭を軽く掻きながら、溜め息混じりに答えた。

「なんていうかテニス部は顔が整った奴が多いんだ。特にレギュラー陣は粒揃いで別名ホスト軍団とも呼ばれるくらいだ」
「ホ、ホスト軍団……」

 思わず顔が引き攣った。普通に考えたらありえない話だが、此処ではあり得てしまうそうで怖かった。大体こんな金持ち校に一般人が入学してよかったのだろうかと名前は不安に陥った。

「……何か俺、とんでもない学校に転入しちゃったかも」

 小さく呟いた言葉は空気に溶け込んで消えていった。



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