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「じゃあ名字は此処で待っててくれ。俺が呼んだら入ってこいよ」
「おー」

 頷くと先生は教室に入っていった。言われた通り待つことに。しかし一分も経たないうちに名前を呼ばれた。

「(呼ぶの早ー)」

 一先ず深呼吸をしてから、扉に手をかざす。不安と期待を胸に秘めながら、ゆっくりと扉を引いた。
 教室に入ると名前を待ち構えていたのは物凄い視線だった。四方八方から視線を感じる。おかげで名前は尋常じゃない程に緊張していた。額からは冷や汗が大量に吹き出ている。

「そんな固まってないで早く自己紹介しろ」

 その様子に呆れた先生が手にしていた名簿帳で名前の背中を叩いた。
 思わずよろめいてしまうが持ち前のバランス力で持ち堪えた。皆の目の前で転ばなかったことに安堵すると、取り敢えず自己紹介を済ませようと顔を上げた。
 途端に色んな声が名前を包み込んだ。

「女かと思えば男かよー」
「でも普通に格好いいじゃん」
「よしっ賭けは俺の勝ちだな」
「俺、女の方に一万も賭けたのによー」

 そんな声があがるなか、名前は勝手に賭け事のネタにされたことに多少なり腹立てていた。
 パンフレットでは生徒は皆、優秀で気品に溢れていると記載されていた。

「(あれ絶対嘘じゃん。どこが優秀。どこが気品)」

 内心で悪態つきながら、一先ず自己紹介をすることにした。

「えー名字名前です。以上です」
「それだけかよー」
「悪いか」
「いや悪くない」

 手をブンブンと左右に振る男子生徒に名前は微笑する。それと同時に先生が教卓を叩き、周りを静かにさせた。

「自己紹介はここまでとして、名字。お前の席はあそこな」
「あ、はい」

 指差されたのは窓際の席だった。そこだけ空席になっていたからすぐに分かった。

「ふぅ、」

 席について一息していると、隣の少年が机を軽く叩いてきた。何だと思い、隣を見れば優しそうな風貌の少年が名前に向かって微笑んでいた。

「俺、鳳長太郎って言うんだ。宜しくね、名字くん」

 見た目を裏切らない物腰の柔らかい口調。愛想も良く誰からも好かれそうなタイプだった。

「こっちこそ宜しくな。あと俺のことは呼び捨てで良いよ」
「分かった。これからは名前って呼ぶね。俺のことも呼び捨てで構わないよ」
「長太郎って呼んでも良いの?」
「勿論。いいに決まってる」

 名前の言葉に鳳は二つ返事で答えた。

「ありがとうな、長太郎」

 目を細めながら笑ってお礼を言えば、鳳は嬉しそうに頬を緩めた。
 ふと、視線を感じたので教卓の方を見れば、先生がこちらを見ていた。そして目が合うなり口パクで、友だちが出来て良かったなと言ってくれた。
 それに対し名前は、とびっきりの笑顔を浮かべた。



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