改札口を出ると学校までは直ぐだった。
 立派な門構えに石碑には大きく氷帝学園と刻まれたいた。

「ここが氷帝学園が。にしてもでっけー」

 通常の倍以上はある。もはや校舎というより豪邸に近かった。あまりの大きさに呆気に取られつつも正門をくぐる。
 暫く歩いて、ふと、あることに気付いた。

「そういえば職員室って何処だ」

 肝心の職員室がわからないのだ。
 見取り図が書かれたパンフレットを持ってはいるが、名前は地図が全く読めない。
 挑戦してみるものの、訳が分からず結局頭を抱え込む羽目になった。

 適当に辺りを見渡したり歩いたりしてみる。だが職員室は一向に見えてこない。寧ろ遠ざかっているように思えた。
 なので誰かに聞こうと、辺りをもう一度見渡した。すると少し先に男子生徒が歩いていた。

「あー、すみません、そこの人!」
「はい?」

 呼びかけに気が付いた生徒が振り返る。顔が見えた瞬間、名前は息を呑んだ。
 ウェーブがかった艶のある髪。どこか儚げな雰囲気を纏う彼は中性的で整った顔立ちをしていた。

「あの、何か?」
「あ、すみません。えっと職員室って何処かわかりますか?」

 彼の掛け声で我に返った名前は謝ると、すぐに用件を話した。すると彼は面食らった顔をした。

「君、此処の生徒だよね?」
「え、はい」
「じゃあ……」
「あ、俺今日編入してばっかなんですよ」

 何で知らないの、と聞かれるのが目に見えていた名前は先に答えた。彼は、そうかと呟くと考えるように俯いた。

「俺もよく分からないんだ」
「えっ」

 今度は名前が驚いた。彼は微笑している。

「俺は此処の生徒じゃないから、当然といったら当然なんだけど」

 彼が着ている制服は氷帝学園ものではなく、立海のものであった。それを彼に言われて漸く気付いた名前は思わず、あっ、と声を漏らした。

「ふふ、気付いたかい? だから俺には分からない。寧ろ俺が職員室の場所を聞きたいくらいだったりする。ごめんね」

 困ったような、でも笑いも含まれたような表情で謝る彼に名前は頭を左右に振った。

「いや大丈夫です。あとよかったら二人で場所探しませんか? 一人よりも二人で行った方がいいと思うんですけど……駄目ですかね?」
「ううん、俺は全然構わないよ」

 名前の提案に彼は笑顔で頷いた。その笑顔も、また綺麗だった。


***


 職員室を探しながら、二人は色んな話に花を咲かせていた。それこそ最初はぎこちなかったが、テニスの話題が出た瞬間、それは見事に打ち砕かれた。
 しかも彼の名前は幸村精市。あの、かの有名な立海テニス部部長だった。それを知った時、名前は興奮で目を輝かせた。
 今では敬語も無くなり、お互いを名前で呼び合うほど親しくなっていた。

「それで跡部って奴と戦ってみたくて此処に編入したんだ!」
「へーそうなんだ。それなら立海に来てほしかったな」

 名前が居てくれたら楽しそうなのに、と言ってくれる彼に名前は頬を緩ませ、嬉しそうに笑った。

「でも氷帝はよく立海と練習試合とか合宿するみたいだし! それに俺頭悪いから立海はちょっと無理なんだよねー」

 此処もスポーツ推薦で合格したしさと言い付け加えると幸村は、そっかと相槌を打った。


「あ、もしかしてあれが職員室じゃないかな」
「え、どこどこ」
「ほら、あそこ」

 幸村が指差した方向に目を見ると、そこには職員室と書かれたプレートのついた扉があった。
 しかもスーツを着た大人たちが何人も出入りしている。

「当たりみたいだね」
「良かったぁ、あー長かった。でも精市と居たから楽しかったや」

 にへらと笑うと幸村は顔を微かに紅くさせ、嬉しそうに俺も楽しかったと答えた。



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