桜が綺麗に咲き誇る四月。
 雀の囀りが外から聞こえる。カーテン越しから差し込み日差しが朝だと伝えるように顔を照らしていた。

「んっ」

 小さな唸り声をあげると軽く寝返りをうつ。起きる気配はない。時計の短針は六を差そうとしていた。
 丁度六時になると騒音に近い目覚ましが室内に鳴り響いた。

「……、うるさっ……」

 微かに目を開けるとゆっくりと手を這いつくばせ目覚ましのスイッチを押す。音はぴたりと鳴り止んだ。
 そして名前は再び夢の中へと落ちようとした。だがそれは見事に阻まれた。名前が起きなかった時のためにセットされていた予備の目覚ましが猛々しく鳴り出したのだ。

「うるせっ!」

 あまりの煩さに流石の名前も目を覚ました。ベッドから飛び跳ねるように起きると煩い目覚ましを止めた。
 縦横無尽に跳ね広がった髪。口元には涎の跡。視界が定まっていないのか、目はおぼろ気だった。
 拳丸々一つ入りそうな程の大きな欠伸を零すと頭を適当に掻いた。ベッドからゆっくり降りると洗面所へ向かう。

「うー、冷たっ」

 冷たい水に少し身震いする。しかし顔を洗ったおかげで目は覚め、頭も冴えてきた。
 自室に戻ると時間を確認した。

「もうこんな時間か」

 只今の時刻、六時半過ぎ。
 自宅から氷帝学園までは電車を利用しても大体一時間はかかる。
 ということは余裕を持って七時には家を出ないといけない。時間があまりないことに気付くと急いで身支度を始めた。

 先日届けられた制服を紙袋から取り出す。勿論入っていたのは男物の制服。
 白のカッターシャツにブレザー。ブレザーの胸元には氷帝学園を示す勲章が縫い付けられている。そしてズボンはお洒落にもチェック柄。あとネクタイが入っていた。
 全て確認し終えると素早く制服に着替え始めた。

 シャツの裾に腕を通す。ズボンも履き、ベルトでずれないように固定する。あとはネクタイを結んでブレザーを羽織るだけなのだか、ここである問題があった。
 名前はネクタイが結べない。正式には結んだことがなかった。
 今まで在学してきた学校にはネクタイ自体がなかったからだ。勿論、私生活でも使う機会もない。名前は頭を抱え込んだ。
 試しに結んでみるものの、やはり上手くできなかった。

「くっそー……」

 自分の不器用さが情けない。こんな時に限って頼りになる兄は朝練で不在。思わず溜め息が出た。
 名前は諦めるようにネクタイを首から取ると、ベッドへと放り投げた。
 ブレザーを羽織り、一通り身に纏えた自分の姿を鏡で確認する。

「へー意外と似合うじゃん」

 自分でも男だと勘違いしてしまいそうなほど様になっていた。ネクタイがないことに多少なり違和感はあるが、その以外は特に問題なさそうだ。
 ふと時計を見れば、時間は既に七時を回っていた。


「うわ、やべっ!」

 名前は慌てて鞄を手に取り、家から飛び出した。


 

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