「確か三番線だよな」

 駅前に着くと、時間と時刻表を確認する。
 時刻は七時十五分。
 三番線発は十八分。
 これを逃すと次は二十分後。学校の最寄り駅までは最低でも一時間近くはかかってしまう。これに乗らないと確実に遅刻する。急いで切符を購入するとホームへと急いだ。

 階段を掛け降り、通路を全力で走る。身体を鍛えていたおかげで時間内にホームに着くことができた。
 しかし安心するも束の間。
 プルルルル、と発車音がホーム内に鳴り響いた。慌てて駆け込もうとするが、電車内は既に満杯で入るに入れない状態だった。
 しかし遅刻だけは避けたかった名前は僅かな隙間に無理矢理身体を突っ込ませた。

「はぁ、はぁ……」

 人の波に押されながらも窓際につくと、取り敢えず間に合ったことに一安心した。

「それにしても人多いなぁ」

 辺りを見渡せばサラリーマンや学生ばかり。丁度ラッシュの時刻なのだろうと理解すると、次からはもっと早くに出ることを決意した。


***


 電車に揺られること四十分。乗客は多いままだったが満員電車にも漸く慣れてきた。到着駅の氷帝学園前まではあと三、四駅。

 ぼんやりと窓の向こうを眺めていると小さな違和感を感じた。
 誰かにお尻を触られた気がしたのだ。

「(……まさかな)」

 名前は今は男装している。なので、はたから見れば男。
 男に痴漢する人なんて、まず居ないだろう。しかし多少なり不安を感じたので、念の為に頭だけ振り返らせた。後ろには無表情の中年男性が居た。特に変わった様子はない。
 やはり偶然擦れただけだろう、胸を撫で下ろすと再び景色に目を向けた。

「……っ!」

 しかし、それは単なる偶然ではなかった。
 今度は自分でもはっきりと分かるほど大胆に触られたのだ。背筋に悪寒が走る。
 恐る恐る中年男性を見た。男性を見るなり、顔が一気に青ざめた。先程とは打って変わって顔を赤くして下品な笑みを浮かべていたからだ。興奮しているのか鼻息も荒かった。

「(ま、まじかよ……!)」

 無意識に身体が震え上がる。 
 気付けば男性の手は胸の辺りまで来ていた。撫でまわすように胸を触られる。サラシを巻いてるので感触は然程無かったが、気持ち悪くて仕方無かった。
 満員電車の中、この行為に気付く人は居ないだろう。その上、身動きが殆ど取れない状態であった。それを良いことに痴漢行為はどんどんエスカレートしていく。

「!!」

 必死に耐えているとズボン越しに何かが充たった。それは紛れもなく男性のモノだった。
 何度も押し付けられたり擦り付けられりする。気持ち悪さに身じろぐと、腰が動いてるよと言われ泣きそうになった。興奮交じりの吐息が何度も耳にかかる。

「っ、いい加減に……」

 半泣きになりながら男性を睨むと、彼の腕を掴もうと必死に手を伸ばした。

「男が男に痴漢とはやるのう」

 だがその前に別の誰かが男性の腕を掴んだ。



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