未だ続くラリーに少年の息は段々荒くなる。汗も留めなく流れていた。
 少年の名前は名字名前。去年もこの大会を制した優勝者である。といっても彼が制したのは男子の部ではなく、女子の部。
 そう、彼は女の子だった。容姿や体型は女の子にも男の子にも見えるが、性別上は列記とした女の子。

 この大会のシステムは少し変わっていた。
 一回でも優勝経験のある女子は男子の部に選手登録することができるのだ。男子も優勝した場合、次の大会では高校生の部に選手登録することができる。
 理由は選手育成の為。優勝したからといって満足してもらっては困る。より向上心を持たす為にも、このシステムは取り入れられたのだ。

 試合は名前のマッチポイントまで迫っていた。
 次、決めれば名前の優勝。しかし決めなければタイブレークに突入してしまう。体力が既に限界の名前には持久戦での勝ち目はない。
 絶対にこれで決める、名前はボールを強く握り締めると空に向かって投げた。相手コートに目がけてラケットを力いっぱい振りおろす。
 鋭い音が鳴った。
 サーブを放つと次に備えてすぐに移動した。相手が力強く打ち返してくる。また激しいラリーが続いた。


「……っ」

 ラリーは延々と続いた。先程から左右前後に走らされっぱなしの名前。今ではもう返すので精一杯だった。
 相手選手は名前をコートの端に追いやると、そこで決めに入った。
 打ち返されたボールに徐々に加速し、自分とは真逆のライン側へと向かっていく。
 名前は最後の力を振り絞って駆け出した。今のままでは追い付かない、グリップを限界までずらして手を伸ばした。
 それでもまだ届かない。
 だから地面を思いっきり蹴った。ボールに向かってダイビングする。

 今度は届いた。

 ラケットに当たったボールは弾むようにして宙を舞う。落ちていくボールは、この時だけスローモーションの様にゆっくりに思えた。

 ボールはネットの上に落ちた。
 そして右に落ちるか、左に落ちるかでゆらゆらと揺れていた。丸でどちらに落ちようか迷っている様だった。

 息を飲む声だけがリアルに耳に届いた。



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