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「ジロちゃんいい加減どいて。重い」
「えー、やだCー」

 いい加減、周りからの視線も痛いので芥川に退くように命じた。しかし芥川はそれに全く応じなかった。それどころか駄々をこねるようにしがみ付いてくる。これには流石の名前もお手上げ状態。

「ジロー、名前が困ってんだろ?」

 名前が困り果てていると、救いの声が降ってきた。この声は、と顔を上げる。

「亮!」

 そこにいたのは宍戸だった。
 宍戸は呆れるように溜め息を吐くと、芥川の襟元を掴み、力任せに名前から引き離した。
 彼が離れたことにより、背中が一気に軽くなる。視線も多少軽くなったような気がした。

「亮、ありがとう」
「ああ、気を付けろよ? ジローはすぐに抱きつく癖があるからよ」
「うん」

 以後気をつけようと肝に命じると、先程から気になっていたことを宍戸に聞いてみることにした。

「それで亮たちは何の用で此処に来たんだ?」

 何の用も無く三年生が二年生の教室に来るとは思えない。それも複数でだ。
 名前の質問に宍戸は顎で忍足を指した。

「別にたいした用はねぇよ。ただ忍足がお前を見たいって言うから来ただけだ」
「忍足さんが?」

 何でだと忍足を見る。すると彼はにっこりと笑いながら言った。

「二年からの編入って珍しいやん。やからどんな子やろと思ってな」
「ああ、なるほど」

(言われてみれば珍しいのかもしれない)

「おい、お前ら。用が済んだんならとっとと戻るぞ」

 名前が納得していると、苛立ちが含まれる声が発せられた。誰だろうと後ろを振り返る。
 彼を見るなり名前は目を見開かせた。
 鋭い蒼色の瞳。それを引き立てる目元の泣き黒子。筋の通った高くて形の良い鼻に薄い唇。シャープな顎。
 誰もが見惚れてしまいそうな顔立ち。思わず息を飲んでしまう。

「あー跡部じゃん」

 跡部。彼が司の言っていた跡部景吾なのか。よくよく見れば彼は周りとは何かが違った。
 それは外見が良いとかではなく、何か人を惹き付ける、オーラがある。そんな感じだった。
 見惚れていると不意に目が合った。

「おい、何見てんだ」
「あっいえ」

 鋭く睨み付けられ、我に戻った名前は慌てて目を反らした。目が合っただけで顔が熱くなっていく。胸も高鳴っていた。
 何故だろう、分からない。
 けれど、その高鳴りが暫くの間、やむことはなかった。

 

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