一体誰が、顔を上げると鋭い眼差しで男性を睨んでいる男子学生の姿があった。
 白に近い銀髪。切れ長の目に筋の通った高い鼻。形の良い薄い唇。それを引き立てるような黒子。彼はモデルのように整った顔立ちをしていた。
 制服からして彼は立海の生徒。確か氷帝とは通学路が真逆のはず、どうして立海の生徒がこの電車に乗っているのか疑問に思ったが、すぐに考えるのをやめた。そうしている間にも彼は男性と口論をしていたからだ。

「男に痴漢とはのう」
「な、何を言ってるんだ! 俺は痴漢なんかしていない!」

 怒鳴るように否定すると男性は彼に掴まれていた腕を振り払おうとした。しかし相当な力で掴んでいるのだろう、びくとも動かない。男性は顔を強張らせた。

「嘘はよくないぜよ」

 鋭い眼光が男性を捉える。睨まれた男性はひぃっと小さな悲鳴をあげた。額からは恐怖で汗が滲み出ていた。凄みをきかせる彼、とても同じ学生だとは思えなかった。

「……今なら警察には突き出さんのじゃが」
「っ!」

 警察、という言葉に男性は顔面が蒼白した。そして縋り付くように謝り出した。
 その様子に彼は名前に視線を向けた。そして目が合うなり、男性を顎で差した。どうする、という意味なのだろう。名前は少し考えると、もういいよという意味を込めて頭を横に振った。
 彼は男性を冷ややかな目で見下ろすと、掴んでいた腕を離した。すると男性は慌てて逃げ出した。
 居なくなったのを確認すると、彼は心配そうに名前の顔を覗き込んだ。

「平気か?」
「え、あ、はい! あ、あの助けてくれて、あ、ありがとうございます!」

 端麗な顔がいきなり目の前にきたので驚いて大きな声を出してしまう。しかも緊張で何度も言葉を噛んでしまった。
 しまった、と思った時にはもう遅かった。
 既に周りの人たちがこちらを見ていた。沢山の視線。恥ずかしさに顔が赤くになる。
 その様子を彼は口元に手を当て可笑しそうに見ていた。

「くく、お前さん面白い奴じゃのう」
「わ、笑わないでください」

 名前が顔を赤くさせたまま睨むと、彼はすまんすまんと謝った。
 そして頭をぽんっと撫でると、そのまま彼は立ち去ろうとしていた。名前は慌てて彼の裾を掴む。掴まれた彼は怪訝そうな表情でこちらを見てきた。

「なんじゃ?」
「あの名前と連絡先教えてもらえますか?」
「連絡先?」
「今度お礼したいんで……」
「ふーん。といいつつ実はナンパだったり?」
「ち、違う!」

 彼の発言に思わず大きな声をあげてしまう。またしても周りから視線が注がれる。
 恥ずかしさに顔が俯く。彼は肩を震わせながら笑っていた。そんな彼を名前は恨めしそうに睨んだ。

「んで連絡先じゃろ」
「あ、うん」

 思い出した名前は携帯を慌てて取り出す。しかしタイミングが悪いことに、氷帝学園前とアナウンスが丁度鳴ってしまった。名前は携帯を戻すと彼の前に手を合わせて謝った。

「ごめん、俺ここで降りなきゃならないんだ」

 申し訳なさそうに謝ると彼は大丈夫だと頭を横に振った。
 名前は荷物を手に取ると再度彼の顔を見た。

「あと俺の名前、名字名前。因みに二年、ほんと助けてくれてありがとう。じゃあな!」

 それだけを言うと名前は急いで電車を降りた。途中、彼が何か言っていたが周りの雑音で上手く聞き取れなかった。



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