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ぎゅうううううっ
さっきから緩まることのないルッチさんの腕の中、温かくてついついうとうとしてしまう目としぱしぱさせながら、懐かしい(と言っても数週間ですが)感覚にまたうとうと。
お酒とハットリさんと木材の匂いと、本当に本当にほんのすこしだけ、勘違いかと思ってしまう程の一瞬、……鉄の匂い。
それが船の材料のものなのか、それとも。
それを聞くことはできませんが、それも含めてぜーんぶがルッチさんの匂い。
「…ハルア、眠いのかっポー?」
「むむ、大丈夫ですよ。それに」
「それに?」
「まだ、やです」
「や?」
「久しぶりだから、まだぎゅーってするんです」
……これだから寝ぼけた頭は、考えたことをそのまま言ってしまうから厄介なんです。
わがまま言いは子供の証拠。
でも、でも、もうちょっと、もう少しだけ。
あとちょっとだけぎゅーってしたら、ちゃんと良い子に戻れますから。
もぞもぞと体を動かして、くせと波のある黒髪をかき分けるようにして腕をそろりと回したのはルッチさんの首。
…わ、のど仏動いた。
「なら、俺もお言葉に甘えるっポー」
「むぎゅうっ」
「ハルア、ハルア」
呆れられても当然、怒られても当然。
そんなわがままを言ったのに、帰って来たのはため息でも拳骨でもなくて、ますます込められた腕の力でした。
少しだけ痛いけれど、まだこうしていたいと言ったのはぼくなんですよね。
額を合わせてぐりぐりしてみたり、頬ずりしてみたりやっぱりぎゅっとしたり。
聖地でもいろんな方にしていただいたことですが、何と言うんでしょうか?ルッチさんが……元祖、と言いますか。
言い方は変ですが、本当にそんな感じなんですよ。
どの方も個性があって、撫で方や抱きしめ方に違いが出るみたいなんです。そのせいか今は、とっても「W7に戻って来た!」って思いが強いんです。ルッチさんさまさまです!
………後で、カクさんやブルーノさんたちにもわがまま…言っても…むむむ、それはさすがに調子に乗りすぎですね。自重、自重ですよ。
ルッチさん、なんだかあなた一人にわがままを押し付けるような形になりそうです。ごめんなさい!
「ハルア、少し、上を」
「はい?って、わ」
ルッチさんの声に視線だけをちらりと動かしてみると、顎の下に指を添えられて、ぐんっと上に向けられちゃいました。
その動作格好良い…!のは良いんですけど、お顔が、ち、近いような!!
「ハルア」
「あのルッチさん?この距離、とっても誰かさんを思い出してしまって…」
「……(ぎらり)」
「(目が!)ドフラミ、んっ」
!!
あと一文字だったのに、ぎゅっと眉根を寄せたルッチさんの顔が近付くものだから、思わず目をつぶってしまったのですが、これは?
唇に当たるのは妙に平らな感覚で、それに、温かい?
ルッチさんもドフラミンゴさんも唇は冷たくて……って無しです!!思い出しちゃうと恥ずかしさで爆発できちゃうので思い出すのは無しです!
「ルッチ、そーろそろワシらに渡してくれても良いんじゃないかの」
「…空気を」
「読め、じゃろう?残念じゃがこっちは全員ぶち壊すつもり満々なんじゃが」
「あうあん!(カクさん!)」
「ふはっ、こそばゆいわいハルア!」
閉じていた目を開けると肌色。これは、手?
その手の持ち主に目をやれば、にーっこり、それはもうにーっこりと笑ったカクさんでした!
は、背後に何か黒いものが見えるような見えないような!
ぼくとルッチさんの間に滑り込ませたらしい手を下すと、やっぱりにっこり笑ったままズボンにすごい速さで手の平をこすりつけています。カクさん、手の甲も!ぼくがちゅうしてしまった手の甲もゴシゴシしておいてください!
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