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まだ壊れてもいない店の再建について考えていたブルーノ。俗にそれは現実逃避と呼ばれるもので、もはや彼が止めに入っても全くの無駄だと悟っている証拠でもあった。

しかし、結果として彼の現実逃避は杞憂に終わることとなる。

エプロンが無惨にも端切れへと変わった次の瞬間、大人たちの視界からハルアが消えた。驚いて視線を下げると、いた。
端切れの積もる床に、音も無く座り込んだハルアは佇まいを直して、なぜか正座に。かと思えば、ほぼ真上に顔を上げてドフラミンゴを仰ぎ見る。

「なんだハルアちゃん、怒ったのかい?」

「………」

ぱんぱん

少々辛そうに上を見上げたまま、ハルアの小さな手が床を叩くと乾いた音が店内に響く。ん?とドフラミンゴが首を傾げると、また床をぱんぱん。

「あー、こうか?」

ばんっ

なんとなくハルアの行動の意味するところを理解できたようで、すとん、とその場に長身が屈む。しかしヤンキー座りになったドフラミンゴに、今度は先程より強く床が叩かれた。
その音に、叱られた子供のように慌てて正座に座り直すと、ハルアの手がすっと膝の上に戻る。どうやらこれが正解だったらしい。

「さすがのハルアちゃんもご立腹かぁ。フフフ、これは珍しいものが見れ…」

「ドフラミンゴさん」

「あん?」

「このエプロンはですね、随分前にある方にいただいた物だったんですね」

このエプロンは、と言っても、床に散らばるのは黒い端切れ。ハルアが拾い上げた1つはちょうど胸の部分にあったワンポイントで、それを立ったまま見守るCP9の3人はハルアに倣って口を閉じていた。むしろ、「邪魔しないでください」と言いたげなオーラさえ纏っているように感じる。それなのに口調と空気がいつもと変わらず柔らかいところが逆に怖い。

「ハルアちゃん?やっぱり怒ってんだろ?俺が新しいのを」

「(にっこり)」

「ハルアちゃ」

「(にっこり)」

「……………」

「ドフラミンゴさん。ぼく、怒ってないですよ」

嘘吐け!!と言いたい所だが、たしかに怒っているというよりかは諌めるような言い方。小さな子供を膝に抱いて頭を撫でながら、どうしてこんなことをしたの?と聞くような。ただし、頭を撫でるその手には少しばかり重みがある。

「………」

笑みを消して、口がへの字になったドフラミンゴがのそっと立ち上がったかと思うと、数歩移動してルッチの正面に立った。床に正座のままのハルアも彼を視線で追う。
不本意極まりないと言いたげな表情が、鏡映しでルッチにも。

「…言っておくが、俺はお前に謝罪されたところで吐け気を催すだけだ」

「……ハルアちゃん、こんなこと言ってるぜ」

「そうですね。なら仕方ないことです。エプロンはまた新しいものを用意しましょう」

ダメにした本人に買ってもらうつもりは無いらしく、やっと床から立ち上がったハルアはへにゃりと笑って、叱られて反省した子供によくできましたと頭を撫でるようにドフラミンゴの手を撫でた。実際、そういう意味だったらしく、ドフラミンゴもぱっと上機嫌な笑顔に戻ってしまった。

「フフフフ!やっぱりハルアちゃんには敵わねえなあ!!」

「ところで、ドフラミンゴさんは今日の宿はお決まりですか?」

「な!?ハルア、まさか泊める気じゃ…っ」

「この中央街の北に政府の方も利用するメインホテルがありますんで、そこがお勧めですよ」

ばっさり。
これにはドフラミンゴもガックリきたようで、文句は言わないが面白く無さそうにハルアの頬を撫でている。

「やっぱり怒ってるじゃねえか」

「もう、怒ってませんてば」

「夜に客として飲みに来るのはセーフかい?」

「喧嘩も揉め事もダメですけどね。お待ちしてます」

お待ちしてない!全然お待ちしてない!!と叫びたいブルーノも、今ドフラミンゴを刺激すれば、また何をしでかすか分からないので彼が出て行くまでじっと耐えている。
ルッチとカクも「さっさと帰れ。って言うか島から出て行け」という言葉を何度飲み込んだことか。
そんな3人の心労をなんとなく察しているハルアと、ばっちり分かっていても何とも思わないどころかむしろ愉快なドフラミンゴは、壊されたままだった出入り口まで移動した。

「喧嘩も揉め事も我慢しても良いが、ちゅーはしてえなあ」

「むむむ…。じゃあ失礼して」

軽くドフラミンゴの手の甲に口付けて、これでおしまいとばかりに笑顔でお見送り。駄々をこねるかと思いきや、更に上機嫌になったようで大人しく外へ出て行く。

「フッフッフッ。手にとは厳しいなあハルアちゃんは」

最後にハルアの髪をぐしゃぐしゃに撫でて、やっとピンクの大きな背中がホテルの方向へ歩き出した。それを確認してあからさまに疲れた様子の3人に、ハルアも小さく息を吐いて力を抜く。


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