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「ふー…なんでしょうね、嵐のようでした…」

「その嵐の渦中に飛び込んで行ったんだよお前は…。肝が冷えた」

「すいませんブルーノさん。お片付けも途中なのに」

「いや…今は奴を追い返せただけで一安心だ」

「夜にまた来る気らしいが、どうしたものかのう!」

「海軍か政府に連絡して追い払え…る訳がないか」

盛大なため息を隠すこともせず、ドフラミンゴが去って軽くなったはずの空気が、またずっしりと重苦しいものになる。夜になれば、アクア・ラグナの後片付けで疲れた市民や船大工もこの店に集まる。そこにドフラミンゴがあの笑みを浮かべてやって来ると想像すると……。

「…今夜は…店は開けずに閉じこもろうか…」

「それが最善、と言いたい所だが、あの男ならハルアに来ると言った以上は何をどうやってでも入って来るだろうな」

「ああ…これじゃから海賊は…!!」

結局、今晩は店は休みにしてドフラミンゴの2度目の来襲に備えることに。
お客には悪いが、ドフラミンゴがブルーノたちの正体を知っている以上は危ない橋は渡れない。彼が一般市民に手を出さないという保証も無い。壊れた入り口の横に休業と張り紙でもしておけば、勝手に納得してくれるだろう。

それでも荒れた店の中は片付けない訳にいかず、途中だった掃除をブルーノが再開した。カクとルッチ、そしてハルアも周りの物を片付けるが、どうしても目が床の端切れの山に行ってしまう。

「キルトにしても小さすぎますし、他の布とあわせるにしてもやっぱり小さいですね。ドフラミンゴさん、いったいどうやったんでしょう…」

片膝をついて端切れを拾い上げるハルアの言う通り、再利用が難しい程に切り刻まれた元エプロン。
ブルーノがハルアにちりとりを差し出すが、その中に放ってしまうのは躊躇われるらしく、端切れを抱えてむむむ…と唸る。そんな姿を見てカクは苦笑いしていたが、ルッチはぽつりと言葉を零した。

「使えなくなっても未練が無いものなら、潔く捨てた方が良い」

「え?」

「無駄にモノが増えるだけだ」

「未練が無いなんて、そんな」

「ほう?」

「…ルッチさん、あのですね。ぼくはさっき、ドフラミンゴさんには怒ってないって言いましたよね?」

「ああ、そうだったな」

「あれは、本当です」

「…………」

彼にしてみれば、ここで「あれは嘘でした」と言ってもらえることに期待していた。
ハルアが絶対にしないと分かっていても、犯人に激怒して声を荒げてほしかったし、悲しんで言葉を失ってもほしかった。だがルッチはそれを口にできるほど子供でもなかったし、黙殺できるほど今は冷静でもない。

つまるところ、彼は拗ねているだけだったりする。
それを知ってか知らずか、ハルアは困ったようにへにゃりと笑った。

「悲しいんです。ぼくは悲しくて寂しくて、悔やんでるんですよルッチさん。
あなたにいただいてから1年以上経ってるんですよ?ずっとお世話になったエプロンなんですから」

何も思わない訳がない。それでもそれを言える状況ではなかった。だから言わなかった。それだけ。

「それに何より、ルッチさんに…あなたに、いただいたものだったんですよ?」

「……」

「ルッチさん?」

がしっ

ハルアの言葉を聞いたルッチはしばらく無言になったと思えば、腕を伸ばしてハルアが抱えていた元エプロンを掴んだ。そしてそれを、ブルーノが差し出したままだったちりとりへ、ぽいっ。

「えええええ!!?い、今ってそういう流れでしたか…!?」

捨てたくないって言っていたつもりなんですが…!と慌てるハルア。捨てろと言われたので嫌だと説明したら、問答無用で捨てられた。今のルッチの行動はまさにそんな鬼畜の所業だった。
それ程までに怒っているのかと思ったら、その予想に反してルッチの表情は満足げな微笑。

「使えなくなったなら捨てるのも大事だ。変わりは…そうだな。今夜にでも」

自分で買うからと慌てる声は、もちろんあっさり流された。
…そうしてすっかり機嫌が良くなったルッチの姿が、さっき出て行ったドフラミンゴそのものだったことは、ブルーノとカクには絶対に言えない。

「もう…!!…あ!ブルーノさん、ちり取りと箒を2階に持って行っても良いですか?」

「それは良いが…上も奴に荒らされてたのか」

「むむむ…実はその…」

歯切れの悪い物言いに、嫌な予感しかしない3人は無言で階段を上がり、迷うことなくハルアの部屋の扉を開けた。

「…えっと、着替えに戻ったらこうなっていて…」

唖然。
クローゼットから引きずり出された衣類はエプロン同様に端切れになり、粉々になったエターナルポースや宝石の欠片がキラキラと輝いている。そしてこれはハルアにしか分からないことだが、荒らされたのは海軍本部から持ち帰ったものばかり。もちろん、ドフラミンゴ以外から受け取った品だった。それ以外の、元から持っていた物は無事なところを見ると、よくもまあそこまで正確に判別できたものだと言いたくなる。

「フフフ、フッフッフッフッフッ!!」

その頃、早朝にいきなり現れた七武海に大騒ぎとなったホテルのロビーで、1人、それはそれは楽しそうに笑う姿があったとか。



喧嘩と挑発の置き土産にラッピング



「こりゃあひどいのう…」
「ハルア、割れ物には触るなよ」
「もはやどこから手を付けていいか…」
「そうだな。まずはこの堂々とベッドに置かれたピンクの羽コート(子供サイズ)を燃やすか」
「ひゃあああ待ってくださーい!!」
「とりあえずカクとルッチはそろそろ仕事に行け…」



あとがき
ドフラさん、やっと撤退です。
そして、余計なことしかしないことに定評のある彼は、聖地での思い出を叩き壊して行ってくれました。外道!この外道!←
管理人:銘


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