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「で、ここへ何をしに来た」

「おいハルアちゃんどこ行った。むこうか?」

腰かけていたカウンターからドフラミンゴが腰を上げようとすれば、ルッチが睨みをきかせて冷え切った空気はますます冷える。
そんな2人を気にしながら、ブルーノは店内の掃除+修復中。無理やり外された嵌め戸は良いとしても、こじ開けられた扉はかろうじて金具が生きている状態で、壊された鍵のことを考えても変えるしかないらしい。他にも割れた酒瓶にグラスに皿の片付けに、冷蔵庫の中身も触られているようなのでチェックも怠らず。

…まさか居住スペースの2階も荒らされているんじゃなかろうか…と嫌な予感しかしないブルーノだったが、今は1階の片付けとドフラミンゴ(と、ルッチ)の監視でいっぱいいっぱいである。

箒を動かしながら冷や汗を拭っていると、階段を下りてくる足音が2つ。

「ううう…口がかつて無いほどスースーします…!」

「おーいブルーノ、歯磨き粉の買い置きってあるかのう」

「ああ、もう無かったか。…で、何回洗わせた?」

「歯磨き5回、薬で口内洗浄5回、あとはひたすらにうがいじゃ」

「おいおいひでえな、ばい菌扱いかい俺は」

「やかましい!まだまだ足りんくらいじゃ!!」

ドフラミンゴ来襲の発覚後、ルッチの登場でばたばたしていたブルーノズ・バーに、良いのか悪いのか分からないタイミングでやって来たのがカクだった。

店内で乱闘寸前になっていたドフラミンゴとルッチを見てぎょっとして、状況説明を求めてブルーノの方を見た彼を、ハルアと一緒に2階の洗面所に押し込んだのはもちろんブルーノ。この3人に暴れられでもしたら、店の骨組みが残るかも分かったものでは無い。

「ハルアちゃん聞いてくれよ。こいつらが言うには、俺には観光の権利も無いらしい」

「観光に来た島で空き巣か。良い趣味をしている」

「でも、どうしてあんな高潮の日に?船は大丈夫だったんですか?」

「フフフ、俺が可愛いハルアちゃんの誕生日を祝わねえ訳はねえだろう?」

当然だとばかりに笑うドフラミンゴが言うには、船でこの島の近海に来た頃には海は荒れ始めており、前もって調べておいた高潮だと分かったが「こりゃダメだ」と引き返すわけが無く、危ない戻りましょうと焦る乗組員を無視して港に船を着けさせた。その頃には日が暮れ、市民の避難も済んだ後のようでほとんど人の姿は見なかったとのこと。
しかし上陸したのは彼1人で、後の乗組員たちと船はさっさと荒れる海を引き返させた。

「で、ここに来てみたらあの嵌め戸だ。フフフ、ノックしたら外れちまったけどな」

「中から誰の気配もしないことくらい分かっていたくせに…。そもそもこの店はどうやって調べた。…まさか、ハルアが?」

「い、いえ。ぼくはドフラミンゴさんにはこの島のことも皆さんのことも…誕生日も、言っていないはずです…よね?」

恐る恐るドフラミンゴを窺うハルアの言葉に、CP9の3人の鋭い視線が一点集中で注がれる。そんな一般人であれば声も出なくなる視線をものともせず、フッフッフッフ…と笑うばかりで答える気は無いらしい。

「アアそうだ、夜中に上で電伝虫が鳴いてたんで出てやったぜ。あんたらの長官さんからだったな」

「え、スパンダムさんが?」

「なっ、は!?隠し戸を開けたのか。と言うか俺の部屋に…」

「まさかおぬし、ハルアの部屋まで荒らしておらんじゃろうな」

「フフフ、いやぁ?」

「…やはり海に捨てた方が良いらしい…」

「わ、わ、ケンカしちゃダメですよルッチさん」

今にもドフラミンゴに掴みかかりそうなルッチを、慌てたハルアが腰に抱き付いてストップをかける。ハルアに言われればしぶしぶ気を鎮めるが、しがみ付いているハルアからドフラミンゴの方へ視線を向けた後、やや間を空けてハルアへ戻した。所謂、2度見。

「………ハルア」

「はい?ケンカしないですか?」

「それは…いや、それより」

良いのか、と続けるルッチは、自分の背にまで回される細い腕に軽く触れた。
昨日まであれ程に“子供っぽい”ことを避けていたハルアが、止めるためとはいえ抱き付いている。慌てて離れる様子も無い。そのことにカクも気が付いたようで、おや、と不思議そうな顔をしている。

ブルーノからすればその件は既に解決済みで、頭を撫でることも抱き上げることもOKなのはしっかり確認してある。
事情が分からないドフラミンゴは、口を挟まずに2人の様子を見ている。

「えっと、その、何と言って良いやら。昨日までは変にこだわってしまっていて、ご迷惑をおかけしました」

「つまり…もう、良いのか?」

へにゃりとした笑顔で応えたハルアの頭に、そっとルッチの手が乗った。以前の様に寸前で逃げられることなく髪に触れた手に、安心したのか呆れているのか分からない小さなため息が聞こえた。


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