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命を救われることが恩だと言うならば、俺の恩人は既に二人。
まあつい最近作ってしまった恩は、助けられずとも死ぬことは無かっただろうが。
それでも相手に俺を救う意思があったなら、それは間違いなく返すべき恩だろうよ。
二人の恩人の内、一人はとうの昔に失った。
返せずに溜まったまま腐り行く恩を、俺なりの方法で街中にばらまいているつもりだと言ったら、あの人は笑うだろうか。
いや、それにしても
「ハルアへの恩もなんやかんやで返せてねえじゃねえかあああああっ!!!!」
「落ち着くんだわいなアニキー!」
「ハルアのお帰りパーティーで全員酔いつぶれたことなんて気にしちゃダメだわいな!」
「うだあああ言うんじゃねえよ情けねえ!」
情けないなんて言葉じゃ足りやしねえ!
あの騒動の翌日から、なぜかW7から姿を消していたハルアが帰って来たってんで、一家総出でスーパーに盛大なパーティーを準備してたってのに、駆け込んできたザンバイの報告は、ガレーラの野郎どもが一足先に盛り上がってるというものだった。
…この俺様を差し置いて、ハルアのお帰りパーティーなんざ100年早いぜガレーラこの野郎!
フランキーハウスを半日かけて飾り付け、ソドムやゴモラにもリボンを飾り付けたのは誰だ?
俺だよ!(正確にはモズとキウイ)
酒ばかり準備しようとする子分どもを叱りつけて、ハルア用にとジュースやお菓子も用意させたのは誰だ?
俺だよ!(正確にはモズとキウイ)
あいつにあの日、助けられたのは誰だ!?
ン〜……っ俺だろうが!!(正確には俺と…あとハト野郎)
「しかしあの日のハルアはすごかったわいなー…」
「そうそう、誰もじゃんけんに勝てなかったわいな!……アニキも」
「ありゃあ甘く見てたぜ俺はよお…。まさかあそこまで飲まされるとは…」
子分どもにつけられた蝶ネクタイを投げ捨ててガレーラに乗り込み、ハルアの相変わらずちっせえ体を抱え上げて大脱走。
傍にいたハト野郎が何か言ったような気がしたが、子分たちの待つフランキーハウスに超特急で帰宅した。
ガレーラでのパーティーがどれだけひどかったのか、ハルアは始終機嫌の悪い顔で黙りこくるばかり。
子分たちが絡みに行っても、俺がギターをかき鳴らしてみても、やっぱりぎゅっと眉根を寄せて、似合いもしないしかめっ面だった。
アウ!そんなになるまでむこうのパーティーはひどかったか!
それなら尚更、こっちでは楽しんでもらわにゃあ!!
どんどん大きくなる笑い声(ただしハルア以外)の中、不意に音も無く立ち上がったハルアが、口を開いて酒瓶を持ち上げる。
なんだなんだ一気飲みでもいくのかと全員が注目すると
「お前ら…皆さん、ぼくと少しだけ遊びませんか
…とっても楽しいことですよ?」
そして、次に目を開けたのは昼間。
こうして主役によって終わらされたパーティーは、質の悪い二日酔いを残していった。
…………。
「スウウウパアアアに情けねええええええっ!!!!」
「わー!アニキがまた爆発したわいなー!」
「もう気にしちゃダメなんだわいなアニキー!」
「ハルア−!ちきしょーっ思い返してみたら全然楽しそうじゃなかったしよおおお!」
「と言うか、アニキにここに連れて来られた時点で見たことない仏頂面だったわいな」
ぐさぐさ刺さる妹分の言葉に、もうギターすら弾く気力もねえよ。
あいつに借りがあるってのもあるが、何より喜ばせたかった。
うわあ、ありがとうございますフランキーさん!
そう言って笑うハルアを思い浮かべるのはあまりに簡単で、その頭を撫でる自分の姿も同様に。
なのにあの仏頂面。あの無表情。あのテンションの低さ。
極め付けは、全員が酒にやられて落ちる醜態。
あの後ハルアはどうした?一人でガレーラの方に帰った?
俺たちにため息でも吐きながら?
「ハルア−っ!!おーんおんおんハルア−っ!!」
「アニキが自責のあまり壊れたわいなー!」
「涙が滝のようだわいなー!」
そりゃあ涙が滝のようにもなるわ!
笑わせたかったなあ、ハルアの奴をよお。
こう、ぱーっと、にこにこーっと。
「あ、アニキ!アニキ!」
あいつの好きな腹芸(腹の冷蔵庫を開けるだけ)とか、もっとしたら良かったのか?
フランキーさん大好き!とか言われてえじゃねえかちきしょー!
「アニキ!こっち向くんだわいなアニキ!」
って言うか俺、パーティーの時ですら名前呼ばれてなくねえか!?
ああん!?そう言えば最後に名前呼ばれたのいつだ!?
ハルアが帰って来てすぐのガレーラでも、あいつに呼ばれた覚えがねえんだが!!
「礼だってろくに言えてねえのに、今度はどんなことしてやりゃあ良いんだ!?」
「じゃあ海沿いにお散歩でもどうでしょう」
「散歩なんかで返しきれる恩じゃ…あん!?」
「こんにちは、フランキーさん」
あ、呼ばれた。
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