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「…トラファルガー、とりあえず手を離そうか」

「おい○○○、後で本屋に寄るぞ」

「聞け!そして離せ!」

町中に食欲をそそる食材の匂いが漂う、美食の町・プッチ。
いつでも賑やかなこの町の入り江に、ひっそりと一隻の潜水艦が停泊していた。
黄色の船体に独特のジョリーロジャーが刻まれたその船は、億越えルーキーの一人、トラファルガー・ローのものだった。

そのローの隣を歩いている、もとい歩かされているのは唯一の女性クルーの○○○。
手を恋人つなぎでがっちりと繋いだ2人は一見恋人同士に見えなくも無かったが、○○○の青筋の浮かんだ表情と、本気で嫌そうにするオーラがそうはさせなかった。

「私、ベポと一緒に行動するはずだったんだけど」

「今回はあいつは居残りだ。くじで決まったんだから仕方が無い」

「……しこんだな?」

「本屋はどこだ」

「こいつ!!、あ」

表情を崩さずに歩くペースを速めたローだったが、もっと噛み付いて来ると構えていた○○○の攻撃が来ないことに気付いて、手を繋いだままの隣の○○○に目を向けた。

「どうした」

「今すれ違った子、あの子」

背後を振り返って足を止めた○○○が指さすのは、こちらに背を向けて歩いて行く、まだ小さな子供と、なぜか肩に鳩を乗せたシルクハットの男の2人だった。
何かを話しながら手を繋いで歩く2人は同じ黒髪で、歳の離れた兄弟に見えないことも無い。
どんどん離れて行く子供の背中をじっと見つめていた○○○は、焦ったように口を開いた。

「***くん!?」

「…はい?あれ、○○○さん?」

***と呼ばれた子供はすぐに反応して振り返り、ダークブラウンの瞳が○○○の姿を捕えて驚いたように見開かれる。
***と手を繋いでいたシルクハットの男も○○○たちの方を向き、一瞬だけ無感情にも思える目に獰猛な色を浮かべた。

「うわああ久しぶり!最後に会ったのっていつだっけ!?」

「お父さんたちと○○○さんのお店に行った時ですから、もう2年ほど前でしょうか」

「おっきくなったね、今でいくつになった?」

「10歳です!○○○さんはお変わりありませんでしたか?」

「いやー、変わったことがありすぎて…」

既知の仲だったらしい***と○○○がお互いに歩み寄り、きゃあきゃあと嬉しそうに言葉を交わす中、2人のそれぞれの連れはさりげなく睨みあっていた。
言葉を交わさずとも、相手の思考と危険性を探る男2人だったが、それぞれの手が引かれてそれも中断。

「トラファルガー、この子は私があんたに連れて行かれる前にベル島で知り合った***くん!
あ、こいつはトラファルガー。ただの変態だから気にしないで」

「随分な言いぐさだな。自分の恋人に向かって」

「ははは、黙っててくれる?」

ひきつった笑顔でローの腹に拳を叩き込む○○○に若干とまどいつつ、初めましてと頭を下げる***に、ローも、ああ、とだけ返してまた○○○に腹を殴られた。

「ルッチさん、こちらはベル島という島の料理店で働いていらっしゃった○○○さんです!」

「クルッポー、よろしく」

「(腹話術…!?)どうも。***くんはお父さんやお母さんは今日は一緒じゃないの?」

「はい。今日はいつもお世話になっているルッチさんとお買い物に来たんです」

なにげない○○○の質問に***は笑顔で応えたが、その手を繋ぐルッチがこっそりと顔をしかめた。
***の両親は既に亡くなっており、それを知らない○○○や、場の雰囲気を壊さないための配慮なのか、***はそのことを伝える気は無いらしい。
何でも無い顔をして話す***の手を握る力をほんの少しだけ強めたルッチに、今度はなぜかローが顔をしかめた。


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