[ 2/98 ]

2人で風呂に入って、食事をして、その後は一緒に片付けをしたり、ソファにころがってみたり。

広い部屋の中、なまえがどこへ行こうとルッチの目が追う。
今は窓際に立って外の景色を眺めている。ルッチもその傍に寄って行って、背後から抱きしめるようにして同じ景色に目をやった。1週間ぶりに自室の窓から見るエニエスロビーの建造物たちは、はっきり言って何の面白味も無い。それでもなまえは熱心にそれらを見下ろしている。

「行ってみたいか?」

髪にキスしながら尋ねてみると、困ったように笑いはしたが、何の返答も無かった。
凶暴ではあるがよく躾のされた法の番犬部隊。
寝てばかりだが人当たりは良いと聞く2人の巨人族。
まるで地獄の三頭犬のようなおかしな裁判官。
もしもこの小さな子供に見せることがあれば、いったいどんな顔をするだろう。ぽかんと口を開けたあと、きゃあきゃあと夢中になる姿が容易に想像できたが、ルッチもまた何も言わずにもう一度髪に唇を寄せた。

「…ああそうだ、任務先でなまえに、」

似合いそうな靴を買った。そう続けるはずが、近づいて来る気配に口を閉ざした。
不思議に思ったなまえはルッチの様子を窺うように見上げて来るが、そっとその口をルッチの手でふさぐ。
唐突にノックも無しに扉が開かれて、1週間ぶりの同僚が顔を覗かせた。

「おーいルッチ、帰っとるんじゃろう?」

「バカヤロウ、ノックくらいしろ」

文句を言われても悪びれた様子の無いカクからは、ルッチに阻まれてなまえの小さな姿は見えない。窓とルッチの身体に挟まれるかたちで、なまえはじっと2人の会話を聞いていた。

「おーおーすまんすまん。長官がそろそろ今回の報告書を待ちわびて、やかましくて敵わん」

「っち、夜までには持って行くと伝えろ」

「くくく、それは時計基準か?それとも空に月が昇るまでか?」

「茶化すな。さっさと行け」

からからと笑うカクが扉を閉めて出て行き、足音もすぐに聞こえなくなった。
なまえの口をふさいでいた手をはずすと、緊張していたのか、ふうと気の抜けた息を1つ。

「やっぱり、まだ他の方々にはお会いしちゃダメなんですね」

「ああ。まずはここのトップに挨拶をしてからでないと、色々と面倒になる。だがお忙しい方だ。なかなか機会が無くてな」

大ウソだった。
ここのトップといえば、今もきっとルッチの報告書が遅いと愚痴りながらコーヒーをこぼしているだろう。忙しいというのは嘘ではないが、その気になればいくらでも機会は作れたし、何なら今から連れて行くことだって出来る。
更に言うなら、別にスパンダムに挨拶を済ませなくても、先に他のCP9のメンバーに紹介してもなんら問題は無かった。

それなのに、なまえは未だにこの司法の塔の給仕の顔すら見たことが無い。

「報告書、あとで良いんですか?」

「構わない。どうせ帰りの船の中で仕上げてある」

とは言ったものの。
考えてみれば、遅れれば遅れる程に、あの長官なら愚痴が長くなりそうだ。はいはい申し訳ありませんでしたと聞き流せば良いだけだが、その分時間が削られるのは宜しくない。
それなら今からさっさと出してさっさと戻って来た方が、無駄な時間を過ごさずに済みそうではないか。

「はあ…。やはり今から行ってくる。すぐに戻る」

「分かりました。コーヒーを淹れて待ってますね」

机に放りだしたままだった報告書の束を手に取り、念のためパラパラと確認してみたが問題は見付からない。笑って見送るなまえの頭を撫でて、部屋を出て行こうとした。

「あっ、ちょっと待ってくださいルッチさ…っ」

もう扉に手を掛けていたルッチに駆け寄ろうとしたなまえが、またさっきのように途中で体勢を崩した。ルッチもまたさっきのように剃を使ってその身体を受け止める。

「ひゃあああまた…!すいませんルッチさん、背中にハットリさんの羽がついていたので…!!」

「いや、まだ慣れないんだろう。しかし怪我はしないようにな」

恥ずかしさと申し訳なさのあまりに真っ赤になって謝るなまえの、左の足首をそっと撫でる。

そこにはまる無骨な鉄の足枷は傷1つ無く、それに繋がれた鎖は、なまえではとても動かせそうにないベッドの足に繋がっている。鎖は部屋の中なら十分に歩き回れる長さだが、この部屋唯一の扉には手が届かないようになっている。

まだ鎖の長さ=自分の行動可能な範囲をいまいち理解できていないようで、なまえはよくさっきのように扉に駆け寄ってころんでしまう。

「ルッチさん」

「どうした?」

「ぼく、勝手に出て行ったりしませんよ?」

「知っている。お前は良い子だ、なまえ」

CP9歴代最強と謳われる男が恋をした。
とある世界政府非加盟の小さな島1つを、文字通りに葬った。その任務の報酬代わりにと、彼は1人の人間を欲しがったそうだ。
あまりに突拍子も無い噂に、あのフクロウでさえ笑って済ませた。
そんな馬鹿げた噂が、ほんの一時期だけエニエスロビーの隅で囁かれて、そしていつの間にか消えて行った。

「愛しているんだ。なまえ」

“命の恩人”からの愛の言葉を、なまえはそっと目を閉じて聞いていた。


しあわせの下底
しあわせであるが、ここはかてい。



あとがき
しあわせのかてい(下底)

IFで、もしも少年を見付けたのがクザンさんではなくルッチさんだったら、でした。

||ω・`)ソー…
|彡サッ!
|<タノシカッタデス…

ヤーンデレ!ヤーンデレ!!ついに監禁ネタを書いてしまってちょっとスッキリしました。

本文に入れられませんでしたが、少年の故郷(世界政府未加盟)の島は何かしらの理由で(あやふや)政府からマークされており、実はクザンさんもこっそり何度か行ったことがあり、少年とも出会っています。少年を含む一部の家族は何の問題も関係もありませんでしたが、ルッチさんに諜報員として調査させた後、結局政府の上層部が島全体の殲滅が決定。
島の住民のほとんどを手にかけておきながら、調査時から既に恋していた少年の命をわざとらしく救っちゃうルッチさんと、もちろん何にも知らない少年。
下衆の…極みやないか…!!!!(絶句)

あと、お風呂ではさすがに足枷は外してもらってます。ルッチさんがお風呂で手足を触るのは、左足の足枷の痕を撫でてるから、とかそんな分かりにくい設定です。

このまま完全監禁ライフで幸せ(?)になるも良し、島の住民のリストから少年の名前だけが抹消されていることを怪しんだクザンさんが気付いて助けに来るも良し。何にしろウマー!でもやっぱり下衆いですねルッチさん!!!!

管理人:銘


[*prev] [next#]
top
企画ページ
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -