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いつの間にか布巾を片手に傍に立っていたなまえに、がたがた!と2人で椅子ごとのけぞった。ころげそうになる2人に驚いたのか、大きなダークブラウンの瞳がぱっと見開く。

「すいませんいきなり!こんなに早くまたお会いできたのが嬉しくて、つい」

「い!いえいえ!こここここちらこそまたお会いできて、うっ、うれっ」

「どもりすぎだアホ!!」

「はい、コビーさんお茶どうぞ?お味噌汁のおかわりもすぐ持ってきますね」

ついさっきコビーが噴き出した味噌汁を布巾で拭きながら、にこにこ笑うなまえにコビーが顔がまた赤くなる。すいませんとありがとうを言いたいらしいが、また舌が絡んで言えていない。

「はいどうぞ。コビーさんもヘルメッポさんもたくさん食べて下さいね!」

「あ、あり、ありがとうございます…!」

「あ、そういや俺らの名前。ガープさんに聞いたのか?」

「はい。ガープさん、お仕事中にもたくさんお二人のことを話してくれるんですよ。鍛えがいがあって面白くて、先が楽しみだって」

「えっ!ほ、本当ですか…!!」

「それはもう!ボガードさんに叱られるくらいに」

「そこは簡単に想像できちまうな!」

3人で笑っていると、なまえの頭の青いリボンがまたひょこひょこ揺れる。
ヘルメッポはまたすぐにぼんやりモードに戻ってしまいそうなコビーを肘でつつき、こっそり小声で「会話しろ!何か話せ!褒めろ!」とアドバイスを送ってみた。

「えええ!?そんなこといきなり言われても、あの、ぼくは…っ!」

「?」

「あ、いや、あの…えっと、リ、リボン!!とっても似合ってます、ね!!綺麗な青色で、髪も綺麗にまとめられてて、それで、綺麗な…髪…ですね」

よく言った!と心の中でガッツポーズをしながらも、尻すぼみになる点はいただけない。なので励ましの意味も込めて、なまえに見えないようにコビーの背中を叩く。
コビーの様な嘘を言えそうにない男に褒められて、嫌な気持ちになる奴はいないだろうとなまえの様子を窺うと、寸の間きょとんとした後、花が咲くようにへにゃりと頬が染まった。

「これは大事な方にいただいたもので…。髪もその方がまとめてくれたんです。だから、とっても、とっても嬉しいです」

「そうだったんですか…って、え?だ、大事な方?」

「なんだお前!贈り物くれるようないい奴がいるのかよ!」

「ヘルメッポさんんん!!」

柔らかい表情に更に優しげな色を浮かべるなまえに、思わずヘルメッポが椅子から立ち上がる。相方の前途多難にしか思えない恋を応援する身としては聞き捨てならない。ただでさえ奥手なコビーなのに、ライバルがいるとなるとそれはもう道のりは険しくなってしまう。
その相手が、なまえが一方的に憧れるようなものではなく、むこうから贈り物をするような間柄であるなら尚更だ。

「つきあってんのか!!」

「ヘルメッポさんんんん!!!!?」

「つきあ…?いえいえ!その方にはここで働けるようにたくさんお世話になって…。今は身元引受人、というんでしょうか?」

「あ、ああ何だ保護者みたいなもんか…良かったなコビー」

「はい…!!ってだからぼくは、違…っ!!」

「ふふふ、お二人は仲良しさんなんですねえ」

「あはは、本部にくるまでに色々とありましたからね…」

「そうだなあ…。そうだなまえ、お前もここに来たばっかりだろ?お前くらいのチビなら歳の近い奴なんてほとんどいねえだろうし、手始めにコビーと仲良くなってみろよ」

「tな、は!!?ヘルメッポさん!?」

「そんな!手始めなんかじゃなくて、ちゃんとお二人と仲良くなりたいです。…あ!もちろん、お二人が良ければ…なんですが…」

ぱっと表情が輝いて花が咲いたかと思えば、すぐに仔犬の様に心配そうに様子を窺ってくる。可愛らしい仕草にぐっと胸をつまらせながらも、コビーは何度も何度もうなづいて見せる。

「海軍本部に来てお友達ができるなんて思いもしませんでした。すごく嬉しいです…!」

「ぼ、ぼくも!ぼくもなまえさんと仲良くなれるなら、すごく嬉しいです!!」

ばっ!!と勢いよく差し出したのはコビーの右手。
思い出してみると、午前中の初対面の際になまえと握手を交わしたのはヘルメッポだけで、ぼんやりしていたコビーとはまだだった。
差し出された右手に、なまえが嬉しそうに自分の右手をあわせた瞬間、ヘルメッポがコビーの背中をわざとらしく押した。

「えっ!!!!」「ひゃっ!!!」

押されたままの勢いでなまえにぶつかってしまい、コビーの方は最近強くなってきた足腰で倒れる前に踏みとどまることができるが、なまえはぶつかられた勢いで背後に転びそうになる。とっさに抱き寄せることでなんとかそれを防いだが、完全にヘルメッポの思惑通りとなってしまった。

「わりーわりー!コビーの背中に虫がいてよ!」

「そうだったんですか?あ!すいません、ありがとうございますコビーさん!」

「あ、え………こちらこそ、ありがとうございます…!」

予想以上に小さいだとか頬に触れる髪がさらさらだとか良い匂いがするだとか、おかしなことを思わず口走りそうになるのを必死に堪えたコビーだったが、お礼を言うのも何か違うな、と気付くまでの数秒間、ぎゅっと抱きしめる腕を緩めることは無かった。

「むむむ…ぼくもコビーさんみたいに咄嗟のことに動じないように鍛えましょうか…」

「そんな!ぼくは海兵として強くなるために鍛えていますけど、なまえさんは今のままで十分に素敵です!」

「お、口説き文句」

「え!?あ、違、今のは!」

「でもやっぱり、給仕方とはいえ海軍に入ったんですし、ちゃんと男らしくなれるように頑張ってみたいんです」

「そうだったんですか、なまえさんは努力家………ん?」

「男…らしく…?」

「え?」

「「え?」」

「…あれ?」


しあわせの家丁
笑えない。しかし笑いたいほど確かに恋。


「はあ?なまえが男かって、何言っとるんじゃコビー」
「いえ…あの…はい…」
「何でこんな沈んどるんじゃこいつ」
「まあ…色々ありまして…」
「い、いや!でもなまえさんが男でもなまえさんはなまえさんで…!」
「はーいなまえちゃんの身元引受人の俺が通りますよー」
「「ぎゃああああああ!!?」」



あとがき
しあわせのかてい(家丁)

家丁:召使の男。下男。
IFでクザンさんと出会う→海軍雑用入りな少年!
ベタに勘違いしてくれるコビメッポコンビ。
ああでも男の子3人で意気投合して走り回って遊んでるのも可愛いなあ…!なんにせよコビメッポは癒し。
ちなみに青いリボンはクザンさんがニコニコしながらつけてくれたもの。次の日には黄色いシュシュになり、更に次の日には赤い結紐になります。

管理人:銘


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