予想図にメス-1 [ 19/98 ]
「ふふ、ふはっ、あははは!ハンコックさん、くすぐったいですよ」
「しかしのう、男には女人と違って喉におかしなものが入っていると聞いたが…なまえには見当たらんではないか。っは、やはりおぬし女であったか!?」
「いえいえそんなまさか。でも喉におかしなもの…?あ、ひょっとして喉仏でしょうか」
「のどぼとけ?」
「ぼくはまだ子供だから目立ちませんが、クザンさんたちだと分かりやすいですかね」
「ふむ……」
「わ、わ!だからくすぐったいですってば!」
ソファに座ってのんびりするなまえとハンコックの隣で、椅子としての役割をソファに譲っている蛇のサロメがあくびをひとつ。
念入りになまえの喉を調べるハンコックの指に、首を触られるくすっぐたさに負けたなまえはきゃあきゃあ笑いながらも、いつもと変わらず空気はほんわか。
「しかし、実を言うとわらわはまだなまえが男だと納得できずにおる」
「えええ、そう言われましても…!」
びしい!と至近距離からつきつけられた指に、はっきり言って反応に困る。
サロメも主人が何やら面倒なことを言い出したことは分かるようで、諌めるように小さく鳴いてみるが、ハンコックの耳には届いていないらしい。
「他の者どもに比べて、その可愛らしい声!」
「か、かわいい!?声変わりがまだだからですかねえ」
「小さく細い体躯!」
「数年もすれば大きくなりますよ!……きっと…絶対…!」
「女人の服も似合っておったではないか」
「それは…どうかと思いますが…きっと子供の内は皆そういうもんなんでしょう」
「ええいっ!!男がこれ程に可愛いらしい訳があるまいっ!!」
「むぎゅう!」
何がどうあっても納得できないらしく、テーブルをばしんと叩いてからなまえを腕の中に閉じ込めてしまった。力加減を忘れて容赦なく力を込めてくるハンコックに、男なら天国と言って良いシチュエーションで圧死の危機。色々と圧迫されて声も出せないなまえに、さすがにサロメが焦った様子で首をもたげる。
「シャー!シャー…!」
「なんじゃサロメ邪魔を…あああああなまえ!?」
「む、むむむ…!世界中の男性の皆さん、なんだかすいません…(がくっ)」
「し、しっかりせんか!いつの間にこんなことに!?」
いや今さっき、あなたがそうしましたよ。と喋れないサロメが訴えても意味は無く、オロオロするハンコックの姿はそれはもう美しいが、彼女の他にここにいるのがサロメとなまえだけでは、やっぱり意味も無く。
「そうじゃ!ほれ、これしきのことで弱ってしまうのだから、やはり女人なのでは」
「今のは誰であってもああなるかと…!」
「もうここまでくると男というものの存在が邪魔になってくるのう」
「ハンコックさんそんな無茶苦茶な…!!」
「あららら、ホントに無茶苦茶なこと言ってくれるじゃねえの」
「え、あれ、クザンさん」
「貴様いつの間に!?」
2人の座っているソファに影がさしたかと思えば、ぬっと差し出された手がソファの後ろからなまえの頭をわしわし撫でる。
その手を汚らわしいと言わんばかりにハンコックが払いのけて、追撃にサロメが牙を剥くので、さすがのクザンもさっと手を引っ込めた。
「おーこわ。なまえちゃん朝ぶり。今日はここか」
「クザンさん、このお部屋の扉、開けてません…よね?」
「ああ、うん。あっちから」
指さした方向には、バルコニー。
「色々と逃げ回ってたらなまえちゃんの声がしたもんだから登っちゃった」
「「……………」」
「うわその顔傷付くわー」
むこうの棟が少し騒々しいと思ったら、その原因がここに。
「……のう、なまえ」
「はい?」
「さっきおぬしは、数年もすれば大きくなると言ったな?」
「なになに、何の話。なまえちゃん絡みの話題なら俺を通してよー」
「黙れ口を開くな!揉め事を持ち込む前に消えんか!!…ごほん。つまりそれは、なまえはどんどん男らしくなるということじゃな?」
「そうですねえ。声変わりすれば声は低くなりますし、背も伸びて、考え方や口調も今とはがらっと変わるかも…」
「いや最後のはない」
「ないの。それはない」
「!?」
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