箱入り息子-1 [ 21/98 ]

海原学園高等部の屋上には、1人の男子学生が携帯片手に難しい顔をしていた。
最近16歳になって、やっとGPS機能と防犯ベルの無い機種に変更させてもらえた新品の携帯は、メール作成画面の宛先を「ブルーノさん」にしただけで、本文は1文字も書けていない。

むむむ…!と唸っては文章を打って、消して、また唸っての繰り返し。今は朝から降っていた雨が降りやんですぐなのでこの屋上にも彼1人だが、このままではすぐに誰かが来てしまう。
誰かがいると書けない内容と言う訳でも無かったが、そこは気分の問題である。

「どう書いて良いやら…」

「なまえくん、何かお悩みですか」

「ひゃああああっ!!?」

いきなりの声に驚いて放り出しそうになる携帯を必死に掴んで、咄嗟にぱくりと閉じて握りしめた。

「すいません、驚かせましたね。……内容はもちろん見ていませんよ」

いつの間にやら隣に立っていた+++は、無表情の顔を横に振った。なまえが校内で一緒にいるメンバーは、基本的にそこにいるだけで何かしらの音を立てる賑やか人物ばかりなので、+++の無音っぷりと気配の無さは毛色の違ったものだったが、そんな+++とももう初等部からの付き合いになる。

「いえいえ、書いては消しての繰り返しだったんで大丈夫ですよ。でもビックリしました…」

「教室にいなかったんで、ここかな、と思いまして。ルフィくんたちがなまえくんがいないと騒いでいましたよ」

「あれ?ゾロくんに屋上に行くことは言っておいたんですが…」

「ああ、寝てましたね。ぐっすりと」

「な、なるほど…!」

考えてみれば、休憩時間だと昼食時以外に彼が起きていることは実に稀なことで、明らかに言伝の相手を間違えたと苦笑するしかない。

「なまえくんがこんな所で1人で悩むなんて、相当な厄介ごとみたいですね」

「うーん、厄介と言いますか、どうして良いやら分からないと言いますか」

「ふむ。それは誰へのメールなんですか?例のルッチさんでしょうか」

「いえ、これは…」

握ったままだった携帯をぱくりと開けば、光る画面には「ブルーノさん」と宛先が。
一切血は繋がっていないものの、なまえの保護者にあたる彼へのメール。その本文は真っ白で、まだまだ送信ボタンは押せないらしい。

「絶対に無いとは思いますが、喧嘩ですか」

「あははは、そうですね、喧嘩じゃないです」

「では、何か言い出しにくいことでも?」

それが正解だったらしく、困ったように笑うなまえはまた携帯に視線を落とした。
またぽちぽちと文章を打ってみるが、難しい顔をして消してしまう。

「む〜…実はですね?」

「はい」

「今週末、ルッチさんがお泊りに来ないかと誘ってくれたんです」

「そう言えば前はよくお泊りの話を聞きましたが、最近は聞きませんでしたね」

「そうなんです。せっかくのお誘いですし、ぜひ行きたいんですが…その」

「ああ、だいたい分かりました。ブルーノさんが良い顔をしない、と」

これも正解だったようで、またなまえが困ったように笑う。

+++が言ったように、小さい頃はそれなりに「お泊り会」はしていたし、ルッチがなまえの(正確にはブルーノの)家に泊まったこともあった。暇があればなまえを傍に置きたがるルッチだったが、なまえが嫌がる素振りも見せずに楽しそうにしているので、ブルーノも小言を言いながらもNGを出すことは稀だった。

「でも、最近はブルーノさんとルッチさんの中が何やら険悪になっているみたいで、ルッチさんの名前を出すと…目が、笑ってないんですよねえ…」

しまいには「いいかなまえ、男は皆狼なんだぞ」と、男のなまえに何を言ってるんだお前は。と言いたくなるようなことを、真剣な顔で言い出す始末。理由を聞いてもはぐらかされるばかりで、今回のお泊りも許可が出るか怪しい。と、言うか許可してもらえる気がしない。

どうしたものかと、黙って話を聞いてくれていた+++を見ると、初等部の教師だったミホークと並ぶほどの無表情と言われた+++のその顔に、いまだかつて見たことが無いほどに眉間にしわが寄っていた。


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