その9-1 [ 13/50 ]

良く晴れた昼下がり、いつものように弁当を抱えてやって来たハルアとじゃれあっていた。
今日もハルアは可愛いし、ルッチは変態でパウリーはやかましい。
全くもっていつも通りだったが、その変化は突然だった。

「痛い!」
「あ、バカ!ルッチてめえ痛がってんぞ!」
「!!すまないっポー・・・!(あせあせ)」

突然声を上げたハルアに驚いてルッチも抱きしめていた腕を広げて離れるが、ハルアはへたり、とその場にうずくまってしまった。
そこからはもう大騒動。

「どうした!?どこが痛いんじゃ!」
「おいおい、ルッチお前どんだけ力入れたんだよ」
「クルッポー!そこまで強くは・・・ハルア、ハルア(おろおろ)」

大の大人三人が子供を囲んでおろおろしていたが、当の本人は変わらず苦しげで、その姿にまたおろおろ。
医務室に連れて行こうと小さな体を抱き上げると、閉じられていた目がぱっと開かれたかと思うと、にょきっと。

「あ、すいませんもう大丈夫みたいです」

痛かったです。何だったんでしょう・・・。と首を傾げるハルアを、三人仲良く無言で見つめた。
ハルアを抱える自分の腕に何か柔らかいものが当たっている。
ふわふわと動くそれは、くすぐるように腕を撫でたが今は笑うことすらできない。

「・・・皆さん、眼が怖いんですが」
「ああ。大丈夫だ愛してる」

ルッチの返事は会話になっていなかったが、残念なことにワシも今話しかけられて正常な答えができる気がしない。
なぜって、そりゃあ。

「・・・カクさん、ぼくはまだ寝てるんでしょうか」
「ああ、大丈夫じゃ可愛い」

にょきっと生えてきた黒い犬の耳と尾に、やっぱりおかしな答えしか返せなかった。
自分の異変にやっと気付いたハルアは青くなっていたが、とりあえずこの可愛い生き物をどうしよう。

ハルアの黒い髪から生えた黒い三角耳。
ぴん、と立ったそれは、周りの音を聞き取るようにひくひくと動く。
ズボンからはみ出すようにして生えた尾もやはり黒く、今は感情を表しているのか力無く下がっている。

「・・・わんわん」

本人もしっかりと混乱していたらしく、真剣な顔で現実逃避に走った。
そんなハルアにルッチとパウリーが音も無く飛び付いて来たので、抱えたままのワシももちろんもみくちゃにされた。死ぬかと思った。


+++++++


「ジャブラさ、知り合いの方に手紙をいただいたんですが、お菓子が添えられていて」
「そのせいじゃと?」
「おそらくは・・・。手紙に『俺とお揃いだぜ!』とあったんで。
その時は意味が良く分からなかったんですが、きっとこのことですね」
「ふむ、とりあえずあの犬どうしてくれよう」
「・・・大丈夫ですか、お二人とも」
「「・・・・」」

飛び付いて来た二人を蹴り上げ(どこをとはあえて言わない)、黙らせてからハルアに話を聞いた。
お前ら今のハルアにそうしたくなるのは良く分かるが、ワシの存在は忘れてくれるな。
あと、ワシがハルアの兄貴分だということも忘れるな。
いつも可愛い弟分がさらに可愛くなってしまったのなら、兄貴分がちゃんと守ってやらねばならない。

さて、もう十分に言い訳もしたので、そろそろ。

「ワシの弟分可愛いすぎるああ可愛すぎるまずいこれはまずいああ可愛い可愛い持って帰りたい触りたいお手させたいお座りさせたい待てさせたいハルア可愛い」

「「お前ちょっとハルアを離してこっち来いや」」
「ハルア、お手!」
「「無視か」」

ええいやかましいのう!!
せっかくリアル仔犬なハルアと遊んどるのに!!
ぽかん、としつつも差し出した手に自分の手を乗せたハルアにぷっつんしかけた。
やばいこれは、ジャブラおぬし良くやった。(ただし戻った後は覚悟しろ)

2人も触りたそうにそわそわしておるが(気色悪い)、ルッチに至っては手がワキワキしていて鳥肌がえらいことになった。なんであいつはハルアが関わるとこう気色悪くなるのか。

「カク、とりあえずハルアを」
「今のおぬしは変態以外の何者でもない」
「じゃ、じゃあ俺に」
「黙っとれもう一度蹴り上げてほしいか」
「ハルア、俺にわんわん言ってくれ」
「わ、わんわん」
「・・・〜っ!!」
「ルッチ無言でうずくまるな!!ハルアも聞かんで良い!」

ああ、なんというカオス!
顔を青くしながらもハルアに手を伸ばそうとするパウリーの手を叩き落とし、地面にうずくまってしまったルッチは放置。何かぶつぶつと言っている気がするが、ハルアの耳を塞いで自分も聞かないことにした。

「どうしましょう、もしこのままだったら・・・!」
「いやもうずっとそのままで」
「カクさん!?」
「お、すまんすまん。しかし触り心地が良いのう!」

もっふもっふと尾を撫でたり握ってみたり。
毛並みは短くも柔らかく、ハルアの髪の毛と同様に触り心地も抜群。
きっと林檎と太陽の匂いがするのだろうが、そこまですると本気で色々と歯止めが効かなくなる。

「・・・なあ、カクお前気付いてるか」
「なんじゃパウリー、触らせてやらんからな」
「・・・ハルアが必死にズボン押さえてんだが」

え。
パウリーの言葉に自分がずっと触っているハルアの尾を改めて見た。
尾てい骨から生えたそれは、ズボンを突き破ったりしているわけではなく、腰パンよりもまだ下にズボンを押しのけて生えている。
夢中で触っていて気付かなかったが、どんどん落ちて行くズボンをハルアは泣きそうになりながら押さえていた。
・・・え、ちょっ・・・!



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