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ガキが、エニエスロビーにやって来た。

「ハルアです、よろしくお願いします」
ガキが頭を下げると、ぺこ!と音が聞こえた気がした。

「スパンダムちゃん、この子よろしく」

「え、あ、は?青雉殿・・・」

「普通の給仕たちと同じように扱ってやって」

と、言いたいところだけど。
クザンの長い腕がにゅうっと伸びて、スパンダムの頭を掴む。

「ハルアちゃんに何かあったら、この塔凍らせない自信無いんだよね、俺」

え、ちょ。

このガキ何者ですか、と問いたかったが、すでに腕は放れクザンはハルアに向き合っている。

「いーい?この人がスパンダムちゃん。
この島のお偉いさんだから。あ、俺の方が偉いけどね」

「はい!スパンダム様、ですね!」

「何かあったらすぐにさっきあげた電伝虫で俺に言うこと。
ちょっとでも嫌だと思ったら、やっぱり俺に言うこと。
絶対に我慢も無理もしないこと。OK?」

「はい!」

完全にスパンダムを蚊帳の外にし、二人は親子のようにひしっと抱き合う。
名残惜しそうにハルアから離れ、一人ドアへと向かうが、ちらちらと何度も振り返って確認事項をくり返す。
あんた本当に大将か。どうした。
もちろんこんなことを口に出すわけにもいかず、二人の別れを見ていることしかできない。
最後にハルアの頭をしこたま撫で、やっとクザンは出て行った。

疲れた。すげえ疲れた。
クザンが終始スパンダムへ殺気なのか覇気なのか分からないものを飛ばしていたため、どっと汗が噴き出す。
しかしほっとするのもつかの間、この部屋に残された子供のことを思い出す。
改めて見ても、第一印象に違わずただのガキ、である。

ガキは嫌い、というか苦手だった。

やたらとやかましく騒ぎ、時には大声で泣き叫ぶ。
自分の権力もいまいち理解せず、生意気でずる賢い。
最悪な生き物である。
自分が子供の頃は、もっと気品溢れる頭の良い子だったのに、きっと親の教育が悪いんだろう、と顔を歪めてみる。
今の考えを当時彼の周囲にいた人間に聞かせれば、彼らもまた顔を歪ませるのだろうが。

「スパンダム様、まだ子供ですが、どうかよろしくお願いします」

声に反応して見やれば、ガキが深く頭を下げている

「クザンさんと一緒にいましたが、ぼく自身はただの子供です、世間のこともあまり知らないし、力も能力もたいしてありません。
それでも、ここで生きていくために」

頑張りたいんです、と言うこの子供は、怯えた様子もなく、かと言って生意気なわけでもなく、あまりに真っ直ぐにこちらを見つめてくる。
青雉殿はたしか十歳だと言っていたが、それにしては、あまりにも。

「ガキ、お前何ができる」

見下ろして問えば、一瞬驚いた顔をして、何を思ったのかへにゃりと顔をほころばせた。
んだよ、笑えんじゃねえか。
子供らしくないきりっとした表情を崩したことに、なんだか胸がほわっとあたたかくなった。
・・・なんだこれ、気持ち悪りい。

「・・・何笑ってやがる」

「いえ、あの、話しかけて、下さったので」

嬉しくて、とまた笑うガキを見て、また胸があたたかくなった。
しかし今度は不快感はなく、むしろ心地良い。

「ぼくは家事全般なら大丈夫です。体力には自信がありますし、お茶を淹れるのが得意、と言うより好きです」

「へえ。よし、俺に一杯淹れてみやがれ!」

優しい俺様が味を見てやる。
そう言って電伝虫で給仕室に連絡を入れ、セット一式を持ってこさせる。
カートを押してきたメイドは、ガキを見て驚いていたが、ガキが律儀にありがとうございます、と頭を下げたのを(やっぱりぺこ!と聞こえた気がした)見て、どこか照れたようにどういたしまして、と返して壁際に下がる。

あのメイド、たしか名をギャサリンといったはずだが、自身が長官を務めるCP9のメンバーのジャブラに言い寄られているのを見かけたことが何度かある。
その度にギャサリンは面倒臭そうにジャブラを軽くあしらっていた記憶がある。
フクロウの話では彼女はルッチが好みらしいが、奴の傍にいる時でさえ、今のような表情を浮かべたところは見たことがない。

俺にさえにこりともしねえくせに。
もしやこいつ、とんだたらしか?
そんなことを考えているうちに、ガキはカップやソーサー、スプーンまで一つ一つ手に取って目を輝かせていた。



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