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「すごく綺麗ですね・・・。形も、絵も、お店にあったやつと全然違う・・・!」

「たりめえだ、この俺が使うんだからな。そこらのもんと比べんじゃねえよ」

「だってスパンダム様。このカップも、ソーサーも、全部丁寧に磨かれてるんですよ?
きっと皆さんが頑張ってくれてるんですね」

控えていたギャサリンの方を向いて、ね、と笑って首を傾ければ、ギャサリンの頬がほんのりと染まる。
・・・やっぱりたらしか、このガキ。

満足したのか、手に持っていたカップを置くと、今度は背負っていたリュックサックを漁り始めた。忙しいガキだ。

「店からたくさん茶葉を持って来たんです。アップルティーはお嫌いですか?」

「アップルだあ?
大人の男はコーヒーを飲むもんだぜ、そんな甘いもん…」

「これがぼくの一番のおすすめなんです。 頑張って淹れますね!」

「聞けよお!」

コーヒーも満足に飲めないくせに、というギャサリンの心のつっこみはさておき、円筒の缶のフタが開いた途端、ふわりと林檎の匂いが広がる。
コーヒーばかり飲んでいたせいで嗅ぎ慣れない甘い香りにほう、と息を吐く。
手際よく準備を進めるガキを眺めながら、たまになら紅茶も良いか、と思い直し
てみる。
考えてみれば紅茶だって貴族に愛される高貴な飲み物だ。
自分にもよく似合うじゃないか。うん。

「いい子、いい子!」

「・・・何してるんだ、そりゃ」

ガキは人間にするかのようにポットを撫で、カップにアップルティーを注いでいた。
いい子いい子ってお前、どうした。

「こうやって声をかけてあげると、紅茶もコーヒーも美味しくなります!」

な ら ね え よ !

まあ相手がガキなので、大人な俺様はぐっと堪えてやる。
決して、こいつがやるならそうなりかねんとか思ったわけじゃない。

「スパンダム様、お待たせいたしました」

そう言って差し出されたカップを受け取れば、カップの熱が手袋ごしに伝わって心地良い。
林檎の匂いに包まれたまま一口含めば。

「あめえ・・・が、うめえ」

アップルティーは匂いと同様に甘さも品が良かった。
少々熱いが噴き出すこともこぼすこともなく喉を通っていく。

「お気に召していただけたのなら、すごく、すごく嬉しいです」

へにゃりと笑うガキ。
十歳のガキはこんな言葉づかいをするものなのか。
嬉しい、という言葉を体現したような姿に、頬がゆるむのを感じた。
決して可愛いとか思っていない。

「おい、ガ・・・ハルア」

ガキ、と言いかけて、そういえばこいつはちゃんと名乗ったのだと思い出した。
俺を満足させたのだ。少々格上げしてやっても良い。
やるじゃねえか。と続ける筈だったが。

「っ〜!!!!!!」

ガキ、じゃなかった、ハルアが笑っていた。
今までのへにゃりとしたものとはまた違った笑い方。
ダークブラウンの大きな瞳を細めて、頬を赤らめだらしなく緩めたその顔は、何度瞬きしてみても、周りに花が咲いていた。
頭にぽん、と一つの言葉が落ちてくる。

なんだこいつ。
可愛い。

無性に頭を撫でてやりたくなるような。
ファンクフリードの隣に並べてみたいような。
同じようなことを考えていたのか、ギャサリンも顔を赤らめハルアを見ている。

「あ、あああ、ありがとうございます、スパンダム様!」

分かった。もう分かった。
こいつ可愛い。

ひゃああ、と、照れたのか顔を隠してしまったハルアの頭に手を伸ばした。が。

「もうダメなにこの子可愛いいいいいい!!」

「ひゃあああー!」

まるでかっさらうかのようにハルアの小さな体を抱きしめたのは、壁際で頬を赤らめていたはずのギャサリン。
え、ちょっ!
お前メイドだろーが!剃とか使えねーだろーが!
この伸ばした腕をどうしてくれんだこのやろー!!

「てめえこのやろっ!メイドのくせに俺より先に・・・っ!」

「可愛い可愛いよろしくねハルアちゃーん!もう本当可愛い!」

「聞けええええ!」

「ひゃあああー!」



壁を乗り越えて会いに行くよ



「おい、マジで離れろ!俺にも触らせろ!」
「長官、セクハラです」
「カリファの真似してんじゃねえええ!
ぞっとしちまったじゃねえかああああああ!」
「ひゃあああー!」
「可愛い可愛い可愛い!」
「ちきしょー!!」


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