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「いい加減に離れんかルッチ!」
「ハルアはブルーノの店に住むのかっポー?」
「はい。二階にぼくのお部屋を用意してくれているそうです」
「ハルアももっと嫌がらんか!」
「え?ひゃ、ルッチさんくすぐったい!」
ああ、こんな騒ぎももう一年ぶりなのね。
少し前、ブルーノに言われたことには衝撃を受けたものだ。
俺の甥っ子が店を手伝いに来る。
にやりと笑って(セクハラね)言われた瞬間、すぐに意味を理解した。
ルッチといいカクといい、男はあの子にしばらく会えないだけで限界が来るらしい。
そういう自分も、あの自由奔放すぎる社長に振り回された疲労が霧散してしまったあたり、あまり人のことは言えないのだが。
さて、頭を切り替えて。
私はカリファ。“ガレーラカンパニーの社長、アイスバーグ氏の秘書”なのだ。
その私と“酒場の店主の甥”に面識なんてあるはずが無い。
初対面の子供には何と声をかけるべきかしら?
「ンマー!お前ら何を騒いでる?」
「どうやらパウリーが子供を不審者と勘違いしての騒動のようです、アイスバーグさん」
「おおアイスバーグさんにカリファ!このバカをどうにかしてくれ!」
このバカとは、もちろんルッチのこと。
再会の感動に浸るのは良いけれど、初対面のはずの子供にそれはどうなのかしら。
期待の次期職長候補が、子供の首筋に顔を埋めて離れないなんて状況、外にいるファンの子たちが見たら卒倒するでしょうね。
全くもってセクハラだわ。
「ぼくはブルーノズ・バーのブルーノさんの甥、ハルアといいます!」
さすがハルア。
こちらの存在に気付いても、あくまで初対面を演じてくれる。
しかも自分の役をすぐに言うことで、役の関係の混乱を防いでいる。おそらくは私に向けての配慮だろう。
誤って名前でも呼ばれたら、後の誤魔化しが面倒なことになるところだった。
「そう、ハルアというのね。 私はアイスバーグさんの秘書のカリファよ。
・・・仲良くしましょ?」
初めて会ったときと同じことを言えば、ハルアはちゃんと覚えてくれていたようで、懐かしいあのへにゃりとした可愛い笑いを向けてくれる。
変わりが無いようで安心したわ。
私たちのいないあの島で、ジャブラや長官におかしなことを吹き込まれていないかとヒヤヒヤしていたから。
「俺はアイスバーグ。ガレーラカンパニーの社長であり、このウォーターセブンの市長でもある。
・・・その右手はパウリーがやったのか?」
「いえ、あのこれは・・・」
・・・あれは何があったのかしら。
アイスバーグも首を傾げているけれど、ハルアの右手首はまるで幾何学模様のようなごちゃごちゃとした痕が色濃い。
縄目と・・・あとは・・・歯形?
「悲惨じゃろう。パウリーとルッチのバカのせいじゃ」
やっぱりか。
縄目はパウリーのロープとして、この子の手首に噛み付くなんてルッチにしかできないことだもの。(あら、かなりの問題ねこれは)
パウリーは申し訳無さと困惑で拗ねているけれど、ルッチには反省の色など微塵も感じられない。当然よ。だって悪いなんて思ってないんでしょうから。
「ンマー!!うちの野郎が二人も迷惑をかけたのか!」
「いえ!そもそもはぼくが勝手に入ったからで!」
「それにしたってこれはひどすぎる。 ハルア、この島には来たばかりか?」
・・・ああ、嫌な予感がするわ。
この男の秘書に就いてもう一年。
だいたいは行動と思考のパターンが読めてきたのは良いけれど。
「俺がこの町を案内してやろう」
「・・・この後は一時から新聞のインタビューの予定が入っておりますが?」
「いやだ!!(どどーん)」
「ではキャンセルということで」
もうこの展開は何度目か。
仕事はできるし、人望も厚く頭も切れるこの男。
しかしこの自由奔放さはいかがなものか。
まあやるべきことはやる人間なので、問題は無いと言ったら無いのだが。
さあスケジュールは変更された。
おそらくはこのままハルアを連れて一日中はしゃぎまわることだろう。
きっとこの男もこの子には敵わない。
ルッチは度が過ぎすぎているが、私たちのようにほだされ引き込まれ。
そのうち名を呼んで頭を撫でずにはいられなくなる。
ハルアはそういう子だ。
有無を言わさずハルアの手を握る様はまるで親子のよう。
きっとブルーノが見たら静かに対抗心を燃やすのでしょうね。
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