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この旅行鞄、久しぶりに使いますね。
この島に来た時以来です。
「ハルア、これも持ってけ」
「ジャブラさん、それってジャブラさんの部屋にあった岩じゃないですか?」
「・・・何かの役に立つ!」
「まず鞄に入りませんよ!」
来た時よりも鞄はぱんぱんになってしまいました。
それだけ、ぼくはたくさんのものをこの島で手に入れたんです。
と言ってもほとんど全ていただいたものですけど。
服に靴に時計にネクタイ、本、ペン、ぬいぐるみ、十徳ナイフにスタンガンに伊達メガネ、それに電伝虫。
鞄に入れて持って行けるのはこれくらいでしょうか。
どれもこれもいただきもので、改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
そうそう、給仕さんたちからはお菓子をたくさんいただいたので、これも持って行かないと。
「しかし、やっぱりお前まで行く必要無いんじゃねえか?
長官だって最初はしぶってただ狼牙」
「ブルーノさんがぼくにお店を手伝ってほしいそうなんです。
ぼくでお役に立てるなら、何でもやらないと!」
そうなんです。
一年前にこの島を出たブルーノさんから、スパンダムさんへ連絡があったそうで。
ブルーノさんはあちらで酒場の店主をしているそうですが、そのお店が予想以上に繁盛してしまい、今は一人でてんやわんやだそうです。
そりゃそうです!ブルーノさんは聞き上手だし、お料理だってすごいんですから!
人が集まるのは当然です!
そこでお声をかけていただいたのが、なんとなんとぼくだったのです。
スパンダムさんにこのことを伝えられた時、なぜかものすごい嫌な顔をしていらっしゃいました。
大丈夫ですかと声をかけたら、ハルア−!と抱きしめられてしまい、結局何がなんだかわかりませんでした。
断っても良いんだぞ!と何度も何度も(おそらく三十回ぐらいは)聞かれましたが、ブルーノさんが必要としてくれているなら、首を横に振るなんてことがどうしてできるでしょうか!
・・・それに、ウォーターセブンに行けるんですよ?
いえいえ!これが目的なんかじゃないですよ!
そりゃあ行ってみたいなあ、なんて思っていましたが!
お仕事です!ぼくはお仕事に行くんです!
カクさんやカリファさん、ブルーノさんはお元気でしょうか。
ルッチさんとはお手紙のやりとりがありましたが、他の方々のことはほとんど教えてはくれませんでした。
一年ぶりの再会です。
ああ、皆さんに何てお声をかければ良いんでしょうか!
「けどよう、けどよう」
「はい?」
「・・・行っちまうのか?」
「ジャ、ジャブラさーん!」
「ハルア−!!」
ひしっ!
ウォーターセブンに行くと言うことは、しばらくこちらの島の皆さんとはお別れになってしまうということになります。
それが何ヶ月か、はたまた何年か。
いえ、それよりぼくが生きて帰って来れる保障もありません。
お店の手伝いとはいえ、CP9の任務に関わるんですから、何があってもおかしくありません。
・・・でも、それでも。
「ぼくは行きますよ、ジャブラさん」
「ハルア・・・」
「でも、ちゃんとここへ戻って来ます」
「!」
そうです。ぼくはここへ戻って来ます。
ルッチさんたちが任務を終えて、皆で帰って来ます。
その時はきっとお茶だけでなく、お酒にも詳しくなっていますよ。
なんたって、ぼくは酒場の店員になるんですから!
「あいるびーばっく!ですよ」
「・・・ばーか!」
+++++++
「ありがとうございます、長官」
『・・・ハルアに何かあったらすぐこっちに連れ戻すからな』
「分かってます」
『ハルアが帰りたいって言ってもすぐこっちに連れ戻すからな!』
「はいはい」
『ルッチが変なことしてもすぐこっちに連れ戻すからなあああ!』
「・・・(ちょっと不安)」
店が忙しいというのは事実だ。
カクとルッチが無事にガレーラカンパニーに船大工として潜入し、任務はなかなか順調のようだった。
しかし、あの二人。
さすがCP9というか、何というか。
役通りしっかりと船大工をしているのは良いが、既に次期職長候補とも言われる程の実力を見せつけ、カクに至っては“山風”なんて通り名まで付けられて。
いや、それは良い。
会社や町に馴染むのは良い。
だが、あの二人は人の目を引きすぎる。
見た目にしろ、実力にしろ、だ。
そんな二人がほぼ毎夜訪れる酒場が、人の目を引かないはずが無い。
おかげでこれだ。
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