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最近、化け猫の様子がおかしい。
廊下で見かけたと思ったら、じっと立ち尽くしている。
なんだなんだ気味が悪りい。
どうやら窓から外を見ているようで、俺がいることにも気付かない程に集中している。
やっぱり気味が悪りい。
ちらっと自分も見てみると、外で給仕たちが洗濯物を干していた。
女たちがきゃっきゃと賑やかに笑う光景は、この島には穏やかすぎるものに感じた。
・・・まさか化け猫、目当ての女でもいるのか。
外の給仕たちの中にギャサリンの姿を見付けて焦った。
まさか、こいつ!!
フクロウの話では、なんと彼女はルッチのようないけ好かない男がタイプらしい。
待て待て、まさか、まさか!
どう見たって俺の方が良い男だ狼牙!?
話を聞いた時に、同じことをフクロウに訴えたら、なんだか可哀相なものを見るような目で見てきた。もちろんしばいておいた。
大変まずい。二人が何かの間違いでそんなことになったら、本気で怒りで死ねる。
ギャサリンの肩を抱く化け猫。
いつもより数段上の見下すような目。
そして顔を赤らめるギャサリン。
よし、ここで殺しておこう。そうしよう。
早速実行とばかりに獣人化しようとしたが、それより一瞬早く向こうが動いた。
なんだ、こっちに気付いていたのかこいつ!
ばっと構えるが、奴が動いたのは窓に向かってだった。
え、あ!?
敵前逃亡かあの化け猫!!
「ひゃあああああああー!!」
「え、きゃあルッチ様!?」
「ハルアちゃんから離れて下さい!」
「・・・・」
声は、外から聞こえてきた。
ばっとそちらを見れば、目の前にいた化け猫がいた。
化け猫は
子供を抱きしめていた。
ええええええええええええええええ
え、えええ、え!?
「ルッチ様!」
「黙れ。仕事を続けろ」
「ハルアちゃんも仕事中です!」
「ひゃあああ・・・!」
何度目を擦ってみても窓の外の光景は変わらない。
頬をつねってもみたが、うん、痛い。
いつもはあいつに対して顔を赤らめるギャサリンも、今は子供を離させようとぷりぷり怒っている。ざまあみろ化け猫。
しかしなんだあのガキは
エプロンをしているし、他の給仕も仕事中だと言っていた。
ここであんな小さな子供は雇っていただろうか。
最近は自室での訓練ばかりしていたので、いまいち情報が足りない。
そんなことを考えている内に、外の騒動はやって来たカリファによって鎮められていた。
ガキは化け猫から引き離され、ぽかんとした顔でギャサリンの隣にいる。
化け猫はカリファに何やら注意され、むっとした顔で歩いて行く。
その背中にガキが頑張って下さいね、と声をかけると、ばっと振り返り、大きく何度もうなずいて去って行った。ちなみに右手はガッツポーズだった。
きっしょくわりい!
ライバル視していた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。
それくらいに衝撃的だったし、同時に可笑しくて堪らない。
あの化け猫が!あのロブ・ルッチが!
何だかよく分からないことも多いが、化け猫はあのガキにご執心の様だ。
思わぬ弱みを握ってやった!
しかしどうしたものか。
あれから何度かガキの姿を見かけることがあったが、いつも給仕たちに囲まれて、まるで何かから守っているように見えた。
もしかしてあの事件は日常茶飯事なのか。
おいおい、犯罪くさいぞ化け猫。
しかし、好機はすぐにやって来た。
自室の芝生に寝転がってくつろいでいると、ノックの音が響いた。
しかし音はいつもより低い位置から聞こえる。
まさか、と思ったが、予想はばっちり的中してくれた。
「失礼します、洗濯物をお届けに参りました!」
入れと声をかけると、小さな姿がひょっこり現れる。
手には確かに自分の服が抱えられている。
「ガキ、お前名は」
「ハルアといいます。先日から働かせていただいています」
問えば、あっさりと答えが返って来た。
何が楽しいのか、へにゃりと笑っている。
「すごいですね・・・。部屋の中なのに、まるでお庭みたいです」
「おうよ、狼の間だ!」
「か、かっこいい・・・!」
なんだなんだ、ここの良さを理解するとは、出来たガキじゃねえか。
化け猫には犬小屋と鼻で笑われ、給仕からは掃除しにくいとぼやかれ。
ギャサリンをここに誘っても、もう何度断られたことか。
そんな辛い戦歴を思い出していると、ハルアは楽しそうに芝生を撫でていた。
「寝っ転がってみな、ここの芝生は寝心地も最高だからな」
「い、いいんですか?」
「おう、俺が許可してやらあ」
ここの良さが分かるんなら、この心地良さだって分かってくれる筈だ。
失礼します、と一言置いて横になるハルア。こいつの爪の垢をあの無礼な化け猫に煎じてぶっかけてやりたい。
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