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「ひゃあああー・・・!」

わあ、とかおお、とか楽しそうにあがる声を聞いて、自分の目に狂いは無かったと満足した。
しかし、ごろごろと楽しそうなこのガキ、何度見ても普通のそこらへんにいるような子供である。
まあ目も大きいし可愛らしい顔立ちではあるが、女顔なわけでもなし、特別な何かがあるようにも見えない。

「なあ、ルッチの野郎とは知り合いか何かだったのか?」

「え?ルッチ様とはここに来て初めてお会いしました。
あ、でも・・・」

「あん?」

「スパンダム様の部屋で初めてお会いした時、いきなりぎゅむっと」

「・・・あいつ・・・」

「それで、スパンダム様に“俺に下さい”って」

・・・ぶっ
「ぎゃははははははははははは!!」

ないわ!
あの化け猫が“俺に下さい”!?
ないわ!!

「ぎゃははははははははははは!!」

「な、なんで笑うんですかー!!」

笑わずにいられるか!あの男が!長官に!十歳児を!
ひーひーと止まらない笑いを堪えて手招きすれば、ハルアは不思議そうな顔で寄ってくる。
あの化け猫が何を感じたのか、興味がわいた。

ぎゅむっ

「ぐえっ!」

小さな体は簡単に腕の中に納まる。
さすが子供、柔らかい。
まあ、自分がこのくらいの頃は、すでに修行を積んで筋肉もついて身長ももっと高かったものだが。
そのせいか、自分の腕の中のハルアがとても新鮮に思えた。

人を殺すことなんて考えたこともなく、血の海に立ったこともないだろう。
そうだ、こいつはただの小さな子供。
この体は、俺が獣人化するまでもなく、今力を込めれば簡単につぶれる。
その事実に少しだけヒヤっとした。

微かに香るのは林檎と太陽の優しい匂い。
自分たちのように鉄の香りは纏わない。
・・・ああ、お前はいつまでも鉄の匂いなんて纏ってくれるな。
この小さな手も汚してくれるな。
その目に血の海なんて映してくれるな。

・・・待て、この甘ったるい思考は俺のものか?

ジャブラは今の職業に満足しているし、天職だと思っている。
六式を使いこなし、超人、化け物と呼ばれることにも慣れた。
むしろそのことを誇りに思っていたりもする。

その自分の頭に、こんな甘ったるいことを考えることがまだできたとは。
ああ参った、これでは化け猫と同類か。
あれと一緒なのはものすごく嫌だ。もう一度言う、ものすごく嫌だ!

「ジャブラ様、おヒゲが!おヒゲが痛いです!」

ぐちゃぐちゃと考えていたのに、ハルアの声で全てが吹き飛んでしまった。
ああ、いよいよあいつと同類か。

「俺の優雅な髭が痛えだあ?冗談言ってんじゃねー!」

顎を頭にぐりぐりと押し付ければ、ひゃー!と慌てたような声。
林檎と太陽の匂いが強くなり、自分の鉄の匂いを消し去ったように錯覚する。

柔らかく、甘く、包まれるような、飲み込まれるような。
自然と上がる口角は笑わずにいられない。

化け猫もこれを感じただろうか。
もしそうならあの行動も分からないでもない。
分からないでもない、が。
この心地良い感覚、あんな化け猫にはもったいねえ。

「ジャブラ、セクハラよ」
ざんっ!!
「うおおおおおおおお!!?」

「カリファ様!」

「ハルア、ルッチとジャブラには気を付けなさいと言ったのに・・・」

こいつ!今嵐脚かましやがった!
ハルアに当たったらどうしやがる!と噛み付けば、そんなのあなたが鉄塊で護るんでしょうと流された。
いやそりゃそうだが!

「あなたがここにいると聞いて、急いで来てみれば・・・
ルッチもきっとすぐに来るわ。さ、早く出ましょ」

「ルッチ様が?」

聞き捨てならねえことを聞いた。
それなら。

「うわあ!?」

「ちょっと、ジャブラ!?」

ハルアを脇に抱えて窓枠に飛び乗る。高さはあるが、六式を使えば何の問題も無い。
飛び降りた瞬間に扉が吹っ飛んだのが見えた。
ざまあみろ化け猫野郎!!



君をここからさらって行くよ



「それでよう、ギャサリンの奴、俺に何て言ったと思う!?ううう・・・」
「ジャブラ様、飲みすぎちゃダメですよ。ね?」
「だってようハルア!」
「ぼくがいくらでも聞きますから、お酒に逃げちゃやですよ」
「ハルア−!!」
「二人は何をしてるんだ、チャパパー?」
「本当バカな犬さんね、セクハラだわ」
「よよい!随分と懐いてるよ〜うだな〜あ!!」
「(イライライライラ)」



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