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Arus side


光に連れられエンゴウの地についたとき、またもレツさんは横たえていた。余程三半規管が弱いのだろうか。うえ、と軽くえずきながら起き上がっていた。
その後も、戦闘に参加はするものの皆とは距離を置き、一歩どころか数メートル後方をついてきた。ふと居なくなったりすることのないよう目配せできるようにと、キーファに先頭を任せ自分は殿につく。ちらりちらりと振り返ってみても気付いていないようだった。考え事をしているように見える。視線が一点に集中しているせいで、地面の隆起に躓いたのを見逃さなかったが、幸い自分以外は気付いていないようなので黙っていてあげよう。


「いってらっしゃい」

エンゴウに着いた時、レツさんはそう言って村の入り口付近でふらりと離れていった。行く先を見守れば南東の大きな篝火のもと、放心したように座り込んで空を見上げている。不審者と、間違えられなければいいけど。

「なあ、アルス」
「なに?」
「よくよく考えたんだけどさあ、レツってなんでパミラさんのこと知ってんだ?宿で宣言してただろ。アルスが教えたのか?」

キーファにそう耳打ちをされて、返答に詰まった。言う前から知ってました、なんて言えるはずがない。

「……ん、まあ、そういうこと、だね……」
「なんか違和感あるよな。アルスがレツに旅のこと教えたりするなんて、想像つかないや。はは」

あっけらかんとしてキーファは言う。

「そうだね……」

本当にその通りだ。自分から教えずとも、あの人は知っている。パミラさんに会いたくないと言ったのも、何かしら因縁があるんだろうと想像するのは容易い。しかし、直接の面識はないと言っていたような。ただ対面するにあたって起こりうる厄介事を避けたいだけなのか、もっと根の深い問題があるのか。それはわからない。

フォロッドの落水の件以来、レツさんの具体的な予言を聞いていない。自ら聞きに行くものでもないと思うから。レツさんもきっと話さないのだろう。
気にならないと言えば嘘になる。この世の行方をきっと知っているのだろうから、この世界とは。そんなことが気になった。主観混じりで話されても面白くはないだろうけど。
次に、二人の時間がとれたらそれはなんたるかを問い詰めてみよう。ただの興味本位で。



薬も入手し、グリンフレークへ帰る道中、レツさんが声をかけてきた。心配事があります、と言い切るにも等しい顔で。

「パミラさんなんか言ってなかった?」
「レツさんについてですか?」
「……うん」
「特に、変わった事は言われませんでしたよ」
「まじ?」

よかった、と胸を撫で下ろしてから、続ける。

「俺のことなんか言われたら困るからさあ。田舎に帰れ!その方がお前は幸せだ!とかってね。気にしちゃうしそういうの。俺は俺のやりたいようにやる。だから聞きたくない。何が待っててもね」
「何が待っているのかなんて、レツさんには簡単なこと……のように見えますけど」
「え?俺が?やだなあ。なんでもかんでもわかるわけないじゃん。自分のことはなーにもわからないよ。自分の未来は"記憶"できないもんね」




20160313








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