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「はい、こんにちは」
「……あんたってほんと変よね」

アルスらご一行が到着した時間には、当然の如く石柱に凭れかかって、笑ってみせる。既に居るのを知らなかったようで、マリベルはなんとも言えない顔をしている。

「アルスが放っておいていいって言うから、ついてこないと思ったのに!」
「え、なんかごめんね?」
「もういいわよ!余計なことするんじゃないわよ。それより、さっさと次の場所に行きましょう」

ぐいぐいと、アルスの服の裾を引っ張って催促するマリベル。苦笑いを浮かべながらアルスは袋から赤い石版を取り出した。少しくすんだ微妙な赤色が、血を浴びせ乾かしたようでなんとなく気持ち悪いと思った。
アルスはそれを、向きを確かめながら、がたり、填める。徐々に光が増して、前が見えなくなる。
また、気持ち悪い。何度やっても、絶対慣れないだろう。ぐらぐらと手足も投げ出して空間を彷徨うこの感覚。どんどん呑まれていく。このまま家に帰りたい。



「おい、レツ、おーい!」

頬を軽く叩かれた刺激で目を覚ます。キーファが屈んで、俺の顔を覗いている。

「大丈夫か?」

気分は良くも悪くもない。到着した時、どうも横たえてしまうようで、皆はきちんと地に足をつけている。浮遊感に弱い所為だろうか。

「ん……大丈夫。さ、行こうか」

よいしょと、起き上がると頭から血の気が引いて吐き気がする。起立性低血圧。気にすることはない。
薄暗い道を、なんとなくで辿っていく。アルスとキーファは先に立ち進路を相談している。その横にガボがくっついて、あっちに何かある、と野生の観察力を生かし指差す。後方で残されたのは、俺とマリベル。腕を組んで、なにか言いたげにこちらを見ている。また、面倒なこと言われるのも御免なので、知らないふりをして三人の後に続く。

グリンフレークには案外早く到着した。雑魚敵も、やはりスムーズにとはいかないが、皆のフォローの甲斐あってかなり身のこなしは様になってきたと思う。

「妙だな。人が住んでいないかのように静まりかえってる……」
「あれれ、どうしたんだ。だーれもいないぞ」

町中を捜索すと、あちらにもこちらにも、石化した人たちの姿があった。あめふらしの所為でこうなっている。それを知っている俺は、だから黙っている。
経験に基づいた意見は一致した。町中をくまなく探す、一番高いところ。その屋敷へ急ぎ足で向かい、対峙するはあめふらし。

「石っころになった人間をながめながら吸うミツの味はサイコーだな……」
「おい、おまえ!」
「なんだ?ンキキ!お前たち人間だな。まだ石になっていないヤツがいたなんておどろきだぜ。キキキ。花のミツほどあまくはないが、人間の血もなかなかのモンだそうだ。エサになってもらうぞ。覚悟しろ!キキ!」

覚悟しろ、そう言って襲い掛かってくると思いきや先手を打ったのはガボ。ざっ、と勢いをつけ真っ直ぐに、確実にあめふらしに牙を向く。
マリベルはルカニを浴びせ、キーファとアルスは的確に斬撃を与える。そんな中俺がやることと言えば。

「おー!キーファすっげー!みんながんばれー!ハッスルハッスル!」

応援。正直バカげてると思うし、特殊効果はなく戦闘中の皆からすればただのうるさい声だ。アルスに、どんな強いものかわからないから下がっていろと言われはしたものの、そうすれば貰えるはずの経験値はもらえなくなる。実感からすれば値、というより肌身で体感する経験なのだけれど。目で見る。先ずはそれ。今一番必要なのは見る経験。戦闘とはどういうものか、理解する必要がある。

「レツ!うるさい!黙ってなさい!」
「ごめん!はい皆!ファイオー!ファイオー!」
「わかってないじゃない!」

あめふらしはぐったりとした様子を見せながら攻撃を続けてきたことで、戦闘は後半に入ったと理解する。余裕を持ちつつマリベルは鞭を振るいながらああだこうだと俺に文句を投げつける。キーファは乗ってきたといわんばかりに口角を上げていて、こんなキャラだっけかと疑ってしまう。
割とあっけなく伏し、消え去るまでの一連を眺め、俺もやった方が良かったんじゃないかと思った。見積もるより、パーティの練度は高いらしい。

「あんったねえ!ほんと!どういうつも」
「ええ〜、レツくんの応援良かったでしょ?」

かぶせ気味に言うと、肩にグーパンが飛んできた。

「いってえ!」
「アルスの言うこと聞きなさいよ!下がってろって言われてたじゃない!あんたアルスの下僕なんでしょ!?」
「げ、下僕……」

いつから俺の扱いはそういうふうになったんだろう。





20160312







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