人は顔で判断しちゃいけませんって、よくおばあちゃんがいってた。



「とっとと起きろ」
「ふぎゃっ!」
その声とともに、茜は布団を引っぺがされて心地いい眠りはたやすく破られた。
茜は温かい布団をはぎ取られたことによってダイレクトに感じるようになった冷気にぎゅうっと身体を丸めて、うめく。
「もーおかーさ」
「誰がお前の母親だ」
「…は?」
返事をしたあまり聞きなれない声に、茜の意識は急激に覚醒した。
ばちり、と茜が目を開ければそこは覚えのない和室で、そのうえそろそろと引っぺがされた布団を視線でたどっていけばそこにいたのはあからさまに顔をしかめて不機嫌全快なヤクザ顔の男、つまり小十郎が立っていた。
「あわわわ、えええと、おはようございますこじゅうろうさん?」
「…おはよう。つか、さっさと起きろ」
あれ、怒っているようでちゃんと返事はしてくれるんだと茜は変なところで感心しながらもふと障子の外を見る。
そこはまだうっすらと明るいぐらいで明らかに朝ではない。
いうなれば、夜明け前ぎりぎりというところだろうか、とにかくそんなに早く起きる習慣は茜にはない。
外を見てぼうっとしているとそんな茜の頭を小十郎ががしりと掴んだ。
「そうか、用意はしなくていいってことだな。夜着でいくか」
「ぎゃ!いや!着替えます!でも一人じゃ着替えれません!」
「わかってる。女中が手伝うからさっさと用意しろ。俺は先にまってるからな」
そう言い終わるや否や、小十郎は茜の頭から手を離し、部屋を去っていく。
それと入れ替わりに入ってきた女中さんに着替えさせられながら茜は何させられるんだろうとどきどきしていた。
やっと着替え終わって女中さんにお礼を言うと、茜は部屋を飛び出した。
小十郎を待たせているのが申し訳ないのと、怒られるかもしれないという気持ちと半々だった。
なんたって、小十郎の顔は怖いのだ。
「お待たせしまし、…た?」
「構わん。いくぞ」
やっと庭に立っている小十郎を見つけて茜は声をかけるも、その言葉は段々と小さくなって最終的にはぽかんと口を開けたままになった。
小十郎はそんな茜に手をあげると、すたすたと歩き始めた。
茜は慌ててその後を追いかけるが、どうしても、どうしても小十郎が担いでいるものが気になるのだ。
だってそれはものすごく小十郎に似つかわしいものだったから。
「…えーと、それ、なんにつかうんですか?」
「お前はクワも知らないのか」
「いやそれぐらいしってます。あれですよね、畑耕すやつですよね」
「そうだ。知ってるなら聞くな」
いやいや問題は何でそんなものをあなたが持っているのかなんだけどな、と茜は心の中で叫ぶ。叫ぶけど声には出せない。
小十郎が茜をよく思っていないことは茜自身よくわかっている。
「クワを使った重労働をさせられるのかな・・・!はっ!あれか、開拓とかか!この土地をいい畑にしたら認めてやるとよとかそんなまさかばかな私には無理ですよ小十郎さんんん!」
「うるせえ!お前ちょっとは黙って歩けないのか!」
「あれ、声に出してました?」
「ったく…なんなんだお前は…。まぁいい、ついたぞ」
そう言われて茜が目の前に目線を移せば、そこにあったのはきれいに整備された畑だった。
「…は?」
茜が呆気にとられている間に小十郎はさくさくと畑の中に入っていてしゃがみこんだとおもうとやさしく芽を出し始めている野菜に指で触れた。
とりあえず、茜はそのミスマッチな二つと達筆な字で書かれた「kojyuro's field」という文字が書かれた看板から目をそらせずにいた。
おそらく、それを書いたのはほかでもない政宗に違いない。
「えーと、これは、小十郎さんの、はたけ、ですか?」
「あぁ?当たり前だろうが」
「ですよねー」
あははーと乾いた声で笑いながら茜の眼はやっぱり看板に釘付けだった。
ヤクザと畑というミスマッチ限りないふたつをみせられて茜はもういっぱいいっぱいだった。
「10日間俺が面倒をみるということだったからな、お前がどういう人間か調べるには野菜の世話をさせるのが一番手っ取り早い」
「…はあ」
確かに、薬物患者とかが完全に回復できたかどうか調べるには植物育てたりするって聞いたな、なんて茜はまたもや関係のないことを考えながら小十郎の言葉にこっくりと頷いた。
「ということは、私の命を今握っていえるのは目の前の野菜たちってことですね」
「簡単にいえばそうだな。まぁ、ひとりでやれとは言わない。俺の手伝いだ」
その言葉に茜はくらりと眩暈を覚えた。
「俺の大事な野菜だからな、粗末に扱ったらその時点でお前を斬り殺す」
「…、はい」
そんなわけで、小十郎と茜の奇妙な共同作業が始まった。




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