その日も当日も雨が降っていた。光志との出会いは灰色の雲の下で始まった。 * * * 「なー、頼むよー」 6月という梅雨の時期。 2年生の俺に必死で両手を崇める3年生のレギュラーに、その他バスケ部員たち。 「だから、悪いけどその日は用事が」 「これで最後なんだ! いや最後にしないために!」 さっそく矛盾したことを言ってるのに気付いているのか。 横目で益岡にほとほと困ったような目線を送っても、逆効果だった。 「そんな顔すんなって。試合の応援くらい俺もついてってやるから」 だから、その試合の応援に何でバスケ部無関係の俺が……。 思えば随分唐突な誘いだった。 昼休みのちょっとした隙間時間に教室を離れ、戻ったらバスケ部員が勢揃いして俺を待っていた。 次の県予選の試合応援に来てくれ、と。 バスケになどなんら興味ない俺が、急にそんなことを言われても快く承諾できるはずもない。 なおしぶしぶとした顔をする俺を見て3年生代表の、いかにもバスケしてますといった生徒が襲い掛かるように身を乗り出してくる。 「この通り! 君がいればキャプテンのボルテージは最高になるんだ!」 ゲームのアイテムとキャラみたいなことを言われているキャプテンはその場にいないらしいが、当本人であるキャプテンの名前を、俺は思い浮かべられなかった。 他の部員たちも「キャプテン、お前がいないと最悪のプレーなんだよー」と好き勝手言っている。 「あの、だからなんで、」 「あんたが惚れさせるのがいけないんだろ! もうお願いだよ。大人しくキャプテンの目の届く範囲にいればいいんだ。どうせ奴なんかあんたに声をかける度胸すら持ち合わせていないから。大丈夫!」 惚れさせる……。 全く覚えのないことに頭痛を覚える。どうして仕事場以外でもそうなるんだ。 けど正直、だんだんここまで言われるキャプテンが不敏に思えてきた。 それ以上にこの状況が面倒で。 一日くらい返上してもいいか……。 気づけば俺は観念して会場へのルートを聞いていた。 それが一本の行路だった。 「暇すぎる……」 完全なアウェーの空気。 会場にはボールの音と選手が走る音とが響き渡っていて、不満気な俺の声はすぐに掻き消される。 半ば強制的に誘われたその日の週末。わざわざ学校をサボって来ている俺も俺だった。 キャプテンは3年生の一番ガタイが良い生徒だった。確か1年次の委員会が一緒だったような気がしなくもない。 観客席に来た俺を見たかと思えば急にかけ声を大きくして、まだアップ段階だというのに相当はりきった動きをしていた。 普段の彼がどんなものなのか知らないけど、それを見ると今日俺がここに呼ばれた理由もなんとなく合点がいった。 まあ当然納得は出来てないけど。 こういう場所は、慣れない。 「おい唯。あの先輩本当凄いぜ……動きが違う」 妙に専門ぶった益岡の言葉に思わず笑ってしまう。 「別に俺のお陰じゃないだろ」 「いやお前が理由だって、あれは。しっかしまー、お前もよく変なことに巻き込まれるわな」 「俺は何もしてないよ」 試合が始まればいざ知らず、みんな真剣になって俺の相手をする部員は誰もいなくなった。 益岡はしっかりと俺の隣の席に座っている。 ついてくると言ったのは口からでまかせでなかったらしい。いいのか、それで。 →# [ 8/70 ] 小説top |