「…やっぱ気付いてないか」
「何のこと?」
「そういえば、あのときの雑誌最後まで読んだか?」
「え、うん。全部見たけど」

 少なくとも伊織が載っている頁は、例えどんなに小さくであれ目を通した。
 文字も、一字一句見逃さずに。

「ふーん」
「え、…え? 何」
「何でも」
「や、何で今雑誌の……。…寮戻る!」
「戻ればいいだろ」
「……動けない」

 腰は大分丈夫に出来ているはずなのに、おかしい。

「あ、もしかして“唯一”ってやつ?」
「ふっ……」
「!? 笑うな」
「ところで、まだ返事聞いてねえんだけど」
「なんの?」
「さっき、始めたときにいったやつ」
「……あ」

 部屋、借りるって。

 ──家族、に。

「…うやむやにされたらたまらねえな」

 熱烈な告白、って。俺もうもしかして一つうやむやにしているのか?
 それだけは絶対嫌だ。

 帰ったら絶対見つけ出さなきゃ。

 そう思ったら、伊織の顔が目の前にあった。

「……お前がいるから、俺はカメラの前に立てるんだ。…お前がいるから、笑える」

 震える伊織の声が、胸の中に詰まっていく。

「……うん」
「好きだ。好きでたまらない」
「俺も好き」
「……家族になってくれ」


 戸籍上は認められない俺たちの関係。
 でもそんな形なんて、いらない。伊織がそこにいる。伊織のいきがそこに在る。それだけでいい。もう俺たちは離れられない。




「…………はい」


 伝う涙も、一つに。

 伊織、俺の中でどれだけお前が救いになっているか、しっているかな。
 世界でただ一人だけだ。こんな気持ちになれるの。





「…もし明日、世界が終わるなら」

「下らない話題だな」

「……俺も呼吸、するよ。いきる。伊織と、一緒に」

「……つまらねえな」

「面白さ狙ってないし」

「狙ったらどうなるんだよ」

「……芸人でもない」

 俺が困ると、笑うんだ。全く、なんでこんなに素直じゃないんだ。

 でも。

 ……分かりづらくて不器用で素直じゃないけど。

 その奥にある深い深い愛を知ってしまったら。

「伊織は、どうする?」

 服を完全に整えた伊織が今度は俺の服を着せようと腕を回してきた。行動の間間に唇を落としてきて、くすぐったい。



「……愛する」


 全てが、光となって積もる。


「唯を、愛する」


 全部、全部だきしめて。


「なんだ、じゃあ俺と一緒じゃん」


 そのいきが、愛おしい。











 side.唯、END



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