「……店、やめないのか」 「分かんない」 今までの数年間、ずっと抱かれる生活を送ってきて。 形はどうであれ、従来のものを崩すのには勇気がいる。 俺は何も声に出さない。唯もそれを分かっていて、やめてほしいのかとは聞いてこない。 本音を言うと、今ここにこいつがいるだけで精いっぱいの自分もいた。 初めて出会った瞬間からずっと光志を想っていた唯。 俺の隣にいるこいつなんて、毛ほども想像出来なかった。 「……これからも、モデルは続ける」 「うん」 「ずっと、ずっと続けていく」 「……分かった」 これからも、こいつのために撮影されることを許された瞬間だった。 胸から顔を離し、はにかむように笑う存在がどうしようもないくらい大切で、自分自身がその幸せを実現出来るんだと思うと今までにないくらいの温かさが襲ってくる。 憎むことだけだった俺が、この脆いくせに強い心に出会って何もかもを変えられてしまった。 ……瞳を閉じて、その脳裏に姿を浮かべるだけで。 ──俺は多分、もういつでも笑える。 side.伊織、END →# [ 63/70 ] 小説top |