伊織の姿と同時に、昨日の光景がフラッシュバックして気持ち悪さが襲ってきた。 『汚え』 直に向かって、突き付けられた刃。 初めてではない。むしろ幾度も言われてきたはずだ。 不特定多数の男に抱かれて、若い頃から男の味を覚えて。 『君は、』 『君みたいな、奴は』 いらない記憶まで溢れかえる。 ようやく、俺はぼんやりと呟いていた。 「確かに、歪んだ顔じゃなかったな……」 「は? 十分整ってるだろ?」 不思議そうに見てくる益岡の意見には、同意の言葉を述べられそうにもなかった。 ――昨日の、何が新鮮って。 俺の昼間の顔も知っている人間に夜の顔が露呈して、卑下されたことだ。 今まで大抵のことは丸め込んできた。 それはきっと相手も汚らわしい世界に片足を踏み込んでいたからだ。 だったら、あいつは? 「益岡」 「あー?」 「ありみ……。──いや、やっぱ何でもない」 有宮伊織についてもっと詳しく教えて。 聞こうとしてやめた。 変わりに別のことを聞くことにして。 →# [ 5/70 ] 小説top |