「今日もヨかったよ。じゃあまた」

「さよなら、喜瀬さん」

それだけ言葉を交わして、喜瀬さんは出ていった。
やっぱり常連客だとやりやすい。初めての相手より疲れが三分の一程度で済む。

ふう、と一息をついてベッドに転がり込んだ。
精液の独特の匂いが鼻を突き、昨日短く整えたばかりの髪が頬に当たった。
一度も染めたことのない真黒の毛は、ダメージがあまりないらしく客にも好評だ。

家具といっていい家具は大きなベッドと鏡くらい、薄暗い殺風景な部屋が俺の居場所。
この店「Dolce」でボーイとして働き始めて今年でもう6年目になる。

中学校の入学式を終えた翌日に、ここに来た。
学校に通っている以上毎日とはいかないけれど、それでもかなりの日数を店で過ごしてきた。
様々な人間に身体を貪られ、時には快楽を、時には苦痛を。

一般世間に言わせれば「辛い」ような経験を与えられてきた。

それでいい。俺はそういう人間で、そういう生き方を選んだ。



男だとか、子供だとか、気にしたことはあまりない。
ただ一つ分かっているのは、こんな歪んだ世界にはこんな俺でも欲しがる輩が何人もいるということ。

ひっそりと街裏にただずむ、男を売るこの店の存在を知る人は少ない。
その中でも俺「唯人」はトップ陣とまではいかないけど、それなりの指名数を得ていた。

『唯人、綺麗だ』
『俺のものになれ』
『可愛い』
『一生僕のところにおいてあげる』

一体俺のどこをどう満足してそういう言葉を言うのかは分からない。
行為なのか、容姿なのか。
いろんなことを言われてきた。魅了だって何人かはきっとしてきた。
指名は良好に増え、このままいけば今月の給料も先月より上がる。
全ては順調に進んでいる、はずだったのに。




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