人差し指を立てる伊織は、時々物凄く役者らしい動作をする。
 それでいてそこに嫌味なんて全くなく、才を感じさせた。

 俺は気付けばいつも伊織のペースに引き込まれてしまっている。


「お前は、光志のことが好きか?」



 

 心の中をえぐられた。

 好き、とも。
 好きじゃない、とも。


 嘘も、本当も。
 

 どちらも、俺は口に出来ぬまま、ひたすら伊織の靴を見つめるばかりで。



 伊織がまた一つ、溜息をつく。
 しかしそれは嫌悪感とかではなく、優しい吐息だった。そう感じた。


「半分、だ。半分教えてやる」


 そこから先は、自分で考えろ。

 前置きが物凄く低い声で置かれた。

「あいつは───」





 明日は光志さんと会う約束をしている。
 電話で誘ったときは、自分の正体を白状しようと思っていた。

 でもその先を想像すると、俺は結局逃げることが分かっていたんだ。


 光志さん。
 まだあなたの触れていないこの身体は、今まで何度も何度も他の男に抱かれてきたんだ。
 
 あなたはまだ、俺へ触れようとしないけれど。


 その理由、聞いてもいいですか?



 少なくとも俺は、

 触れ合いたいって。

 そう、感じていたよ。そんな資格、持ち合わせていないのに。


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