人差し指を立てる伊織は、時々物凄く役者らしい動作をする。 それでいてそこに嫌味なんて全くなく、才を感じさせた。 俺は気付けばいつも伊織のペースに引き込まれてしまっている。 「お前は、光志のことが好きか?」 心の中をえぐられた。 好き、とも。 好きじゃない、とも。 嘘も、本当も。 どちらも、俺は口に出来ぬまま、ひたすら伊織の靴を見つめるばかりで。 伊織がまた一つ、溜息をつく。 しかしそれは嫌悪感とかではなく、優しい吐息だった。そう感じた。 「半分、だ。半分教えてやる」 そこから先は、自分で考えろ。 前置きが物凄く低い声で置かれた。 「あいつは───」 明日は光志さんと会う約束をしている。 電話で誘ったときは、自分の正体を白状しようと思っていた。 でもその先を想像すると、俺は結局逃げることが分かっていたんだ。 光志さん。 まだあなたの触れていないこの身体は、今まで何度も何度も他の男に抱かれてきたんだ。 あなたはまだ、俺へ触れようとしないけれど。 その理由、聞いてもいいですか? 少なくとも俺は、 触れ合いたいって。 そう、感じていたよ。そんな資格、持ち合わせていないのに。 →# [ 24/70 ] 小説top |