* * * 「え? こんなに……?」 5月の給与明細を貰ったその場で確認すると、先月よりはるかに振込金額が跳ね上がっていて俺は思わず呟きを漏らしていた。 「不満か?」 「いや。でも計算間違ってない? 俺今月はそんなに出勤してないけど……」 「あー、まあ。それより、唯、ちょっと脱げ」 直樹さんは頭をがしがし掻きながらカウンターでとんでもないことを言った。 「!? ここで?」 「ここじゃねえよ。部屋行って脱いで待っとけ。カメラ持ってくから」 「…ああ」 ようやく直樹さんが意図することが分かった。いきなり変なことを言うから驚くんだ。 「待たせたな」 カメラを構えた直樹さんが部屋のベッドへ座る俺を写す。 店のホームページ用に掲載する写真は、一年毎に更新している。 俺の場合は上半身裸のと、顔がアップの二種類。一応高校生だからモザイク処理はしてもらっている。 前に掲載されてるのを一度だけ直樹さんに見せてもらった。自分の裸が誰でも見れるネット上に曝されているのは何だか妙な気分だった。 嫌なわけじゃないけど、 写っている俺は自分でも驚くほどに無表情で、瞳を隠してしまえばただの生意気なガキという印象しか与えていなかった。 だからといって今更笑った顔をカメラの前でみせるようなこともしない。強いフラッシュに目を伏せた。 「よし、こんだけ撮れば大丈夫だろ」 「じゃ、今日はあがります」 「いや、着るな」 脱いだ上着へ触れた俺を制した直樹さんはカメラを台に置いて俺の方へ近づいてきた。 「ズボンも脱げ。下着まではいいから」 言われた通りにズボンを脱ぐと、直樹さんは俺の身体をまんべんなくまじまじと凝視し、苦虫を噛み潰したような顔になる。 「どうしたの、直樹さん?」 「あのな、ここ見てみろ」 指で刺された部分には変色した痣が残っていた。先日のお客様がつけたものだ。 確か常連客だったと思うけど、顔までは思い浮かばない。 「お前はМなのか?」 「今まで言ってなかったけど、実は」 「馬鹿たれが。必要以上に傷つけるのは禁止だ。お前はもっと自分の身体を大事にしろ」 話を交わそうとする俺に憤ったのか、直樹さんはいつも以上に厳しい口調だった。もしかして今日写真を撮るといったのは口実で、本当は俺の身体の様子を確かめるために呼びとめたのかもしれない。 でもそんなことをする意味が分からなかった。 俺はあくまで商品なんだから、直樹さんが心配する道理もない。 →# [ 20/70 ] 小説top |