──結局、あの日足を進めることは出来なかった。 前日と同じ場所。 中央街外れの小さな公園の噴水前。 あと少しで光志がいる公園に辿り着く。 後少し、あと少しなのに動かせない足。 腕時計が言われていた時間を差す。 長針が12を回った瞬間力が抜けた。 これで良かった。 誰かと深く関わるなんて、そんなことしちゃいけない。 これで──。 『……唯?』 前方からの声。聞きなれた、光志のものだった。 『どうして……』 『お前がいる気がしたから』 光志のところへ行くことは出来ないはずだった。 光志にもう会うことは許されるはずじゃなかった。 『ここまで来たんだから、もういいだろ』 公園の入り口まで僅か数メートル。それでも目的の場所ではない。 『……俺は、光志さんのこと、恋愛感情で好きって言えない』 『そんなの最初から知ってるよ』 知っているんだったら、どうして好きかも知れないなんて曖昧なことを言えるの。 『それでもいいから、言ったんだ。俺はお前の恋人になりたい。恋人になって、お前を知って、お前を振り向かせたい。俺だってまだ曖昧なんだ───それでも、唯ともっと一緒にいたいと思った』 『……』 『なあ、ここまで来たんだろ。ここまで来たなら、同じだよ。どうして唯は、ここにいるの?』 ──ズルい。 そんなことを、言われたら。 『……俺、光志さんが思ってるような人間じゃないよ? いいの?』 『俺が思ってる橋本唯なんて、お前には分からないだろ』 分かるよ。 だって俺、光志の前では綺麗な部分しか、見せてなかった。 本当に汚い部分を、見せたくない。 『どんなお前でも、いいから。俺はお前のいい所を追いかけてるんじゃない』 この人とだったら、いいのだろうか。 知らなかった。数か月の間に、光志がそこまで俺の心の中に入ってきていたのなんて。 『唯。俺と、付き合って下さい』 ──そうして、俺はあのとき道を踏み外したんだ。 出会ってから数ヶ月。 1つ年の離れた光志との付き合いが始まった。 どんどん深みにはまっていく自分に気付きながらも、必死にそれを出さないようにしていた。 もう今では痛感している。 俺は彼と出会うべきではなかった。 俺は。 俺の心には。 「特別」なんて存在、作ってはいけなかった。 『これから絶対、好きになっていくから』 けれど光志の声だけは、はっきりと俺の胸に届いてしまっていた。 →# [ 11/70 ] 小説top |