* * * 光志には俺と出会ったその当時、恋人がいた、らしい。 詳しいことはあまり聞いていない。 人の恋愛事情に首を突っ込むのは嫌だったし、何より光志が喋ろうとしなかった。 知っているのは年上の人ということだけ。 聞くと、納得できた。彼は実年齢よりもずっと大人っぽい。 別れたと聞いたのは、冬の寒いとき。俺と出会ったのが梅雨だったから、最低でも半年は付き合っていた相手。 そしてその翌週のとある休日。光志は俺に一つの提案をした。 『明日も、会える?』 『明日は学校じゃないの?』 もうセンター試験を間近に控えた季節だった。 『んー、明日はいかない』 『どうして?』 『……このままじゃ、唯のことばっか考えて、集中出来ないから』 そんなことを言われるとは思っていなく、どう対処したらいいか迷う。 数か月の間に何度か会い、気兼ねなく話ができるくらいの仲だったけど、光志のことは掴めないままだった。 『……そういうこと、冗談で言ってるといつか刺されるかもよ』 『冗談じゃないのかも』 赤い鼻をすする彼は手と手をこすり合わせていた。 『……別れた原因が、自分だなんて夢にも思ってないよな』 『どういう……』 『唯、俺は唯のことを、好きなのかもしれない』 案外、真面目な顔も出来るんだ。 そう的外れなことを思っていた。 一つ。 誰かの一つに。 光志にとっての一つは。 『明日、またここに来て。これからも、俺と会ってくれるなら』 それでも「かもしれない」の想いだ。 『悩んで。唯が悩んだら、俺は嬉しいよ』 一晩、悩んだ。 その時点で、もうどうすればいいかなんて分かっていたんだ。 男娼の俺には元々悩む権利すらない。 それなのに、光志の言う通りに悩んだ。 * * * 「……、くっ……、ん、」 「ほら、我慢しないで。もっと僕のために声を聞かせてよ」 何が「僕のため」だ。中年の男が聞いて呆れる。 一気に熱が冷めそうになるが、そうなったらオシマイ。 相手のモノを自分の感じる場所にさりげなく誘導させた。 「あっ……あぁっ」 この自分の声が、嫌いだ。 淫らに絡みつくナカも、感じやすくなってしまった身体も。 なんだ。おれ。 自分の全部に、吐き気がする。 「唯人クン……」 相手が達する。それを見計らって俺も熱を放った。 →# [ 10/70 ] 小説top |