差し出した掌を
何度聞いただろうか、その口癖を。
守る
守る、なんて簡単に口にする言葉じゃない。
けれど貴女はそれを有言実行出来る実力がある。
「名無しさんさん、任務終わったんですね?お疲れ様です」
「お疲れ様、ヤマト!…って、また敬語!」
「いや、まぁ、そりゃあ…」
この話の下りから感の良い人は分かると思うけど、彼女はボクよりも立場が上で年齢的には下になる。例え歳下であろうが立場が上の人を敬うのはごく普通、特におかしな事ではないはずだ。
けれど歳下なら相手が敬語を使うものでは?そういった声もあるかも知れないけど、忍の世界は実力が全て。強さに、揺るぎないものがあるのも事実。
だからこそボクはいつものように敬語で彼女に接するんだ。
「前にも言ったよね?私に敬語使ったら罰ゲームだって」
「あぁ、そんなこと言ってましたね…。で、ボクはその罰ゲームとやらを受けるんですか?」
「そりゃね!」
「へぇ……で、内容は?」
「え?…ちょ、待って…んん」
来た!ボクの好きな表情だ。
任務の時はあり得ないくらい頭が切れる。
身近な人物で例えれば、シカマルやカカシ先輩が当てはまるだろう。そんな彼女の普段は少し抜けていて、可愛らしいって言葉が似合うと思う。
まぁ、そんな事は口が裂けても言えないけど。
ふざけ合う、まるで子供同士のやり取り。
そんな関係は満更でもないけど、それは今日までにしよう。何となく今日は一歩前に踏み出したいって思ったから。
「…………」
悩ましげな表情で罰ゲーム≠フ内容を必死に考える彼女。眉間に皺がいっている、其処を指で押し上げたい衝動に駆られちゃうけど我慢。じっとその様子を無言で見つめる事、数分。
そして。
「守らない!」
「…守らない?」
「そう、守らない!ヤマトのこと、任務中とか戦場でも守ってやんないんだから!」
「あぁ、そう来ましたか」
ビシッと指を指してどうだ!と、まるでそう言わんばかりの顔を見せる彼女。
守ってやんないんだから?
悩んだ挙げ句の果ての、この発言や素振りに胸キュンしまくりなんだけど?ボクのライフはもうゼロだよ?
ほんと、可愛いなぁ。
もし此処に机があるなら、ボクは遠慮なくバンバンと叩いていた事だろう。
ポーカーフェイスは崩さずに、内心荒れまくる。
「どう、私に守って貰わないなんて立派な罰ゲームでしょ?」
「はは、全然?むしろ嬉しい案件ですね」
「…え?」
「ボクは貴女に守って欲しいなんてこれっぽっちも思ってませんから」
「ひ、ひど…なに、年下だからって馬鹿にしてるの…」
語尾に覇気がなくなってきて、どんどんと表情が曇っていく。
これは、泣く手前?
というか、傷付く所はそこなんだ?
年下だから…?そんな風に受け取るのは心外だな。
心外な事を突き付けたのはボク自身だけど…
でも、ここからボクの話を聞いて欲しいんだ。
「名無しさんさん、年齢は関係ありませんよ」
「じゃあなんで…守られたくないとか、言うの。私、強いよ?ヤマトよりも強いって自信ある」
「そこは…まぁ、否定出来ないかも知れませんけど…」
「だったら理由は?理由教えてよ」
天然が少し混じっているのか、たまに痛い所を突く彼女の発言に今度は此方が泣きそうになる。
こういう時の彼女とナルトが被っちゃうのはボクの気の所為じゃないよね?
頭をフルフルと振って、一旦リセット。
「ボクはどちらかと言えば男として、貴女を守りたい側なんです。……いや…男とか女とか言うのは失礼ですよね…すみません」
「うん、それ以上言ったら殴ってた」
一度、任務や戦場に立てば性別など関係ない。
むしろ、そういった事で差別される事を彼女は嫌う。手元を見れば心なしかチャクラを纏った拳が待機していたので内心冷や汗を掻きながら、自分で口にした事を軽く反省。
深く息を吐いて、ずっと想っていた気持ちを伝える。
「ボクが…貴女を好きだから、好きな人に守られてばっかりじゃ嫌なんです。好きな人を護りたい、この気持ちは持っちゃいけませんか?」
「は?…え?」
まるで茹でタコのように顔が真っ赤。
…いや、赤い果実のように愛らしい、か。
「だから罰ゲームじゃないんですよ」
「うっ……」
片膝をついて、片方の手は自身の胸元に添え、もう片方は目の前の愛しい女性に掌を差し出す。
流れるような一連の動作は、まるで異国の話の中にある王子のよう。
我ながらキザな事をしてしまったが、踏み出した想いは溢れ出るばかりで止まりはしない。
守ると護るでは、またニュアンスが変わってくる。それに気付いてくれたなら嬉しい。
そして貴女が、この手に触れてくれるか否か。
もしも触れてくれないなら、それでもいい。
貴女を諦める選択なんて、ボクの中にはない。
どんなに時間が掛かっても振り向かせる、それが男ってものだから。
「今度はボクが貴女のことを護らせて下さい。名無しさんさん、貴女が好きです」
fin
20200531
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